ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

スペイン元国王の居所が分かった日、政局も動いた(ファン・カルロス1世とアルバレス・デ・トレド)

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(朝陽を浴びるルーシー)

 

8月17日の月曜日、元国王ファン・カルロス1世がスペインを出国してからちょうど2週間、彼の居場所が公表されました。

8月3日以来、ポルトガルドミニカ共和国アブダビなど、多くのメディアが元国王の行方について取りざたする中、スペイン政府はサンチェス首相以下が一枚岩となって 「この件に関して唯一コメントできるのは、該当する機関である王室のみ」 との姿勢を貫き、その王室は「ファン・カルロス1世の居場所が明かされるのは、彼自身がそれを望む時である」 と言い続けて来ました。

そして17日、王室は「ファン・カルロス1世は、去る8月3日にスペインを出国後、アラブ首長国連邦へ移動し、現在も同国に滞在していることを公表するようにとの意向を示された」 と公表しました。

一部メディアは、元国王がスペインを出た数日後にその姿をアブダビ空港で目撃されていたと報道していましたが、今、ファン・カルロス1世はアブダビに暮らしているようです。誰と一緒にいるか?という点は、いろんなゴシップメディアが賑やかに噂していますが、王室の発表では元国王のプライベートはもちろん明かされません。

現在、元国王に関連する司法事案としては、スペイン最高裁においてメッカのAVE入札に関する贈収賄の疑いに関する予審捜査が行われ、スイスのジュネーブ検察において資金洗浄の疑いに関する捜査が進行しているわけですが、ファン・カルロス1世の弁護士は 「元国王は、スペイン検察が必要と判断するいかなる手続きにも従う意向である」 と説明しています。ちなみに、「国家間の犯罪容疑者引き渡し条約」に関して、アラブ首長国連邦はスペインとは結んでいますがが、スイスとは結んでいません。

 現国王フェリペ6世は、元国王のコリーナ・ラーセンとの関係や元国王がスイスやバハマなどタックスヘブンに所有する資産の存在などがメディアを通じてリークされるたびに、クリーンな王室のイメージを維持するために、自分の父親であるファン・カルロス1世に対して、見方によっては冷酷とも受け取れる措置をとって来ました。それが正解かどうか、誰にも分りませんが、あくまでも私個人として感じるのは、「女好きのちょい悪おやじ的なところが親近感を感じさせていた元国王だったけど、国家予算で大きな金額が支給されているにも関わらず、トップセールスで諸外国にスペインブランドをプロモーションする際にその見返りを個人的に懐に入れていたのであれば、王としても人としてもがっかり、失望した」 という気持ちです。多分、結構多くのスペイン人が同じように感じているのではないでしょうか。そして、未曽有の感染症災禍とそれによって引き起こされた経済危機の中で苦しんでいる国民にとって、元国王に対する失望感や怒りの矛先は、ファン・カルロス1世だけでなく、非の打ちどころのない態度で対処してきたフェリペ6世に対して、いや王室そのものの存在にも向けられ始めている気がします。

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(8月の薔薇)

 

ファン・カルロス1世の動静に関しても、スペインの各政党の見解と対応は異なります。カタルーニャ自治州議会の与党であるカタルーニャ独立派保守系政党は、議会で一方的に「カタルーニャは共和国である」と発表し、スペイン王室の存在を無視、一方、現スペイン中央政府連立政権(革新系)に必要な国会議席過半数を達成するためのキャステイングボートを握っているカタルーニャ独立派革新系政党は、サンチェス首相をはじめとする政府の社会労働党(PSOE)勢力に対して、「元国王逃亡劇の全貌を説明せよ」と迫っています。

連立政府内でも首相をはじめとする社会労働党(PSOE)と革新左派のUnidos-Podemosとの意見は分かれており、社会労働党保守系の民衆党(PP)やシウダダノス(Ciudadanos)と共に元国王の意向とプライバシーを尊重する立場をとっているようです。

 そんな中、スペイン民主化以来、保守と革新の2大政党時代に交互に歴代政権を担ってきた民衆党(PP)と社会労働党(PSOE)に属する元中央政府閣僚、元自治州政府大臣など70名が 「ファン・カルロス1世がスペイン民主化において重要な役割を果たした歴史的事実には敬意をはらうべき」 と言う趣旨のマニフィエストに署名していることが注目を集めています。

 

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そして、国王の居場所が公表されたと同じ17日朝、もうひとつ大きな動きがありました。保守系の歴史的政党、民衆党(PP)の国会スポークスマンが解任されたのです。

1年前、2019年7月、パブロ・カサド党首からスポークスマンに任命されたカジェタナ・アルバレス・デ・トレド女史は、その独自の政治理念の下、政局の場でいろんな意味で際立っていました。党の意向を国会に伝えるポストにあるはずの彼女ですが、敵対する政党や政府の個人に対する攻撃的な物言いや表現で常に物議を醸してきたのです。 

2018年6月1日、民衆党内閣は国会における内閣不信任案可決という形で倒れ、その後、労働社会党による新内閣が誕生。不名誉な形で下野した民衆党は、リーダーを刷新するため、ラホイ前首相の中道派が推すサインス・デ・サンタ・マリア女史と、右派が推すパブロ・カサド氏との間で決戦が行われ、「強い民衆党」を求める流れからパブロ・カサド氏が党首となり、旧ラホイ派を一掃して、パブロ・カサド氏自らが指名した「お気に入り」メンバーで党の上層部を固めました。そんな彼が満を持して任命したスポークスマンが、このアルバレス・デ・トレド女史だったのです。

国会審議の場で、極右政党が放つ「名誉棄損となりかねない、根拠や証拠のない罵詈雑言」は、それを見聞きする国民にとってもインパクトのあるものでした。法案の審議という本来の目的とは乖離したところで、一般国民もプライベートでも使うのに躊躇するような言葉や表現が個人攻撃的な形で飛び交う場面が散見されました。そんな国会において、他党との調整的役割を担ってきた歴代の民衆党スポークスマンとは全く異なり、自ら極右政党よりもさらに激しい言葉で対立政党を攻撃する彼女の姿勢は、民衆党内部の穏健派からもたびたび非難されていましたが、今回の元国王出国に関する彼女の私的見解の公表が、命取りになってしまったようです。

元国王の出国に関して、民衆党は党として 「元国王の決断を支持する。ファン・カルロス1世の過去、現在、未来に関して一切、詮索も意見も行わない」 という姿勢を貫いていたところ、彼女は8月16日(日)、スペイン最大のエル・パイス紙のインタビューの中で、「元国王が秘密裏に出国したことは間違いだった。彼はスペイン国民にきちんと説明を果たすべきだった。このような形で国を出たことは、現国王フェリペ6世を非常に不利な立場に追い込んでしまった。スペインにおいて王室存在の是非を語ることは、立憲君主制を定めたスペイン憲法の是非を語ることになる。1978年に制定された現憲法にはいくつも時代錯誤的要素があり、そのひとつが王室だ」 などと述べたことが、民衆党内部で大きな問題となり、ずっとアルバレス・デ・トレド女史をかばってきたカサド党首もさすがにかばいきれず、17日朝に彼女の解任を発表するに至ったようです。後任は、ずっと調停役を務めて来た穏健派の女性議員が任命され、昨年11月の総選挙での大敗を受けて、民衆党としては右から中道へ舵を切る意向が明らかになりました。

アルバレス・デ・トレド女史の語った内容は一個人の意見としては、私的には、非常に的を得ているような気がします。彼女は政党に縛られる人ではなかったのかも知れません。

 

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この一年間、国会においてたくさんの物議を醸してくれた彼女、好き嫌いは別として、注目を集めずにはおかない女性です。モデルのようなスレンダーなスタイルと人を見下すようにも見える高慢そうな美しい容貌を持つ才媛。

以下、ウィキペディアから抜粋した内容です:父はフランス人で、18世紀初頭から続くスペインのカサ・フエルテ侯爵家の12代目、母はアルゼンチン人で16世紀にアメリカ大陸に渡ったスペイン人の血を引く貴族の家系。1974年、スペインで生まれ、フランス・アルゼンチン・スペインの3つの国籍を持つ。幼少からロンドンで暮らし、教育をイギリスで受ける。オックスフォード大学で近代史を専攻し、ニューカレッジで博士号を取得。2001年に結婚、2018年に離婚。2児の母。2000年にスペインのエル・ムンド紙の記者、その後ラジオCOPEのコメンテーター、2006年に民衆党の政治戦略コンサルタントとなる。2007年にスペイン国籍を取得し、2008年に民衆党から総選挙に出馬して下院議員に当選。2012年、父が他界し、カサ・フエルテ侯爵家を継ぎ13代目となる。民衆党内では、極右であり、元首相のアスナル氏に非常に可愛がられている。

 

おしまい