ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

23J スペイン総選挙、スペイン右傾化に歯止め、しかし混迷を極める結果に!

スペインの夏真っ盛り、7月23日(日)スペインの総選挙が行われました。

民主化後のスペインで、真夏に行われた初めての総選挙、23J。

2023年は春に地方統一選挙、晩秋に総選挙と予定されていましたが、5月28日に行われた地方統一選挙の結果を受けて、5月30日に中央政府のペドロ・サンチェス首相が国会を解散し、総選挙を7月23日に行うと発表したのは以前の記事でも書きました。

 

各政党はもちろんのこと、選挙管理委員会も大慌て、国民も大慌て!だって、スペインで7月と8月はバケーションの季節、選挙人名簿登録されている場所を離れる可能性があるし、投票立会人に選ばれたらバケーション返上しなければならないし! 

ちなみにスペインは、各投票所において選挙が正しく行われるの責任を持って管理するための立会人は各投票所に登録されている選挙人名簿の中から無作為に抽選で選出され、正当な理由がなくこの義務を怠るとかなり厳しい罰則が科されます。なので、投票立会人の抽選が行われるまで、みんな戦々恐々でした。実際に、バケーション時期を変更したり、中止したりする人もいたとか。

 

5月30日から実質的には選挙戦が始まっていたようなものですが、正式な選挙運動期間は7月7日(金)午前零時から22日(金)の24h00まで。スペインでは選挙は通常日曜日に行われますが、選挙運動は金曜の24h00で終了、土曜日は「Jornada de Reflexión」(熟考・熟慮の一日)と呼ばれ、一切の選挙運動が禁止されます。

 

 

 

 

 

さて、選挙が終わってみると、いろんな意味で予想が覆されましたが、以下の3つは特に注目に値します

 

1)投票結果

地方統一選挙では期せずして保守系の民衆党(PP)が圧勝、極右のVOXも躍進したため、総選挙でも同じことが起こり、PPの単独過半数獲得、あるいはVOXとの連立で過半数獲得、と予想されていました。

1975年フランコ没後の民主化以降初めて、極右政党が内閣に入閣する事態になるか?と言われる中、それだけは阻止すべしという民意が動いたのか、PPとVOXの議席保守系の他の政党の足しても国会(下院)350議席過半数には達しない結果となり、一方、現政権(左派連立)のペドロ・サンチェス首相率いる社会労働党(PSOE)は完全に負け戦と予想されていたにもかかわらず、単独議席数だけを見ると、前回、2019年11月の総選挙よりも若干議席数を増やしました。左派革新系政党は分立が激しくそれぞれが単独で選挙に臨むと結局はいずれも議席が少数かゼロの可能性がある中、現政権の副首相、ジョランダ・ディアス女史がそのカリスマと交渉力で複数の左派革新政党を束ねて創った新政党SumarはVoxに次ぐ4番目に多い議席を獲得。

 

2)投票率

バケーションの季節だからどうせ棄権が多いだろう!と予想されていたにも拘わらず、実際は2019年11月の総選挙よりも高い70.40%の投票率でした。国民の関心の高さが反映されました。

 

3)郵便投票

5月28日の地方選挙の際、いくつかの市町村で郵便投票による不正が発覚、再発防止のため早急に規則改正が行われました。以前は郵便局に出向いて郵便投票の申請をするときのみ身分証による本人確認が必要でしたが、郵送で送られて来た投票用紙に記入して郵便局に提出する際には本人確認が不要だったものを、改正後は申請時と提出時の両方に郵便局での本人確認が必要な形に変わりました。

今回の総選挙はバケーションシーズン真っ只中の実施ということもあり、事前に郵便による投票を選択した人が史上空前の200万人越えが予想され、郵便局スタッフのキャパが追い付かずに郵便投票を申請した人に投票用紙が期日内に届かない事態が危惧され、選挙そのものの信憑性にも疑いが生じる、とPPのアルベルト・ヌニェス・フェイホー党首が発言していました。ところが、スペイン郵便は選挙管理委員会と連携して一念発起!郵便投票の作業を行うための臨時スタッフを大量に一時雇用し、郵便投票提出期限を当初の20日22h00から21日14h00まで延長して、見事にそのミッションを遂行して見せました。

 

さて、今回の総選挙は、政治の流れが再び変わったことを示しているようです。

1978年の民主化以降、長年にわたりスペインの政治は革新系社会労働党(PSOE)と保守系民衆党(AP、後にPPに改名)の2大政党が交互に独占して来ました。総選挙では2大政党のいずれかが単独で国会議席過半数を得て、単独与党で内閣を組閣というパターンでした。ところが、2018年にこのパターンが崩れ、「連立政権」という発想が生まれました。

 

その辺の経過を、少し思い出してみたいと思います。

2018年6月1日、第2期ラホイ政権(PP単独政府/第1期2011-2015年/第2期2015-2018年)3年目、PP党全体が関わっていたとされる膨大な汚職システムが摘発された裁判、グルテル事件が決定的となり、本来なら2019年に任期満了だったところ、2018年6月1日に国会にて不信任案が議決され政権が倒れます。ラホイ首相に対して不信任案を提示し、国会議員の過半数を超える賛成を得たPSOEの党首ペドロ・サンチェスが首相となり新政府が誕生。不信任案による政権交代民主化後スペイン初。

 

2019年4月28日、4年毎に行われる総選挙が行われ、ラホイ首相に対する不信任案議決によって首相となったペドロ・サンチェスが初めて総選挙で国民の支持を得られるかが試されるものでした。

結果は:

PSOE(革新系社会労働党)123、PP(保守系民衆党)66、Cs(中道保守系)57、Unidos Podemos(革新系)33、Vox(極右)24議席

左右中道の分散が激しく、単独での過半数は不可能な上、連立政権組閣に向けて水面下で様々な駆け引きが行われるも、スペインの政治そのものが連立政権というものに慣れておらず、PPとCsの連携、あるいはPSOEとUnidos Podemosの連携など、模索はされたものの、成果は得られず、11月に総選挙のやり直しとなってしまいます。

 

2019年11月10日やり直し総選挙の結果は、

PSOE120,PP89, Vox52、Unidos Podemos26、ERC(カタルーニャ独立系左派)13、Cs10

やはり単独での過半数は不可能。右派はPPとCsの連立では全く数が足りない上、台頭してきた極右Voxとの連立政権の構想は未だ現実視されていません。左派はUnidos Podemosのリーダー、パブロ・イグレシアスとPSOEリーダーのペドロ・サンチェスの間でぎりぎりまでの駆け引きが行われ、この2党の連立政権を実現すべく、その他の革新系政党など(ERC, En Comu, Mas Pais, EH Bildu, PNVなど)に根回しをした結果、絶対過半数に満たない議席ではあるものの、2党連立政府組閣に成功し、2020年1月から新政府が発足。直後にコロナ禍に突入、2022年4月にはウクライナ侵攻。そんな中、左派革新系連立政府は、非常に多くの法案を国会で通過させてきましたが、過半数の賛成を得るため、法案ごとに他の政党との交渉を行うという、それ以前のスペインではなかなか見られなかったダイナミックな国会運営が行われ、それなりの結果を出して来ました。

 

そして、このブログの5月30日の記事に書いたように、2023年5月28日の地方統一選挙で、予想以上に右傾化が進行していることを示す結果が出ました。

中道右派を謳ったCsが実質消滅し、PP支持が大幅に増加、そして極右VOXもその勢力を伸ばしました。

6月26日と28日の記事で、地方統一選挙後の市町村政府や自治州政府の組閣について説明しましたが、多くの市町村やいくつかの自治州で、PPとVoxの連立が現実のものとなり、Vox議員が入閣し、Voxの政治理念が自治州や市の政策として実際に現れてくるのを国民は目にしてきました。

 

 

7月23日の総選挙の各政党の得票数を示した図がこれです。

 

 

 

2015年以降、右派も左派も、PPとPSOEという2大政党独占路線から、より細分化した様々な政党が議席を得て、政治の多様化が進んでいた訳ですが、今回の選挙では、PPとVOXの保守連立か、PSOEとSumarの革新連立かという二者択一を念頭に、本当は少数政党に入れたいところを組閣の可能性を持つ2大政党のいずれか(PPかPSOEか)に投票した人が多数いたために、再び2大政党の票が伸びる結果になったようです。

ただ、以前の様に2大政党のいずれかが単独で組閣できるようなシンプルなものではなく、2大政党の党首それぞれが、少数の議席を持つ複数の政党と交渉して連立政権の組閣を模索するという、よりダイナミックな時代に突入したようです。

 

下の図を見ると、国会議席過半数の176議席の賛成を得て組閣するには、PPもPSOEも一筋縄ではいかないかけ引きと交渉が必要なことが明らかです。

 

 

今後、まずは8月17日に新しく選出された議員による最初の国会(下院)が開催され、そこで下院議長が選出されます。その後、2カ月以内に総議席過半数を超える賛成を得て組閣を達成しなくてはなりません。それが叶わない場合は、2019年のように総選挙のやり直しとなってしまいます。

PSOEとSumarが連立することはすでに確定していますが、ペドロ・サンチェスPSOE党首とジョランダ・ディアスSumar党首が協力してそれ以外の政党との駆け引きで過半数を得ることができるか? あるいはPP党首のアルベルト・ヌニェス・フェイホー氏が保守系政権との連立を模索するのか、これからしばらくは彼らの手腕が試されます。

 

Madre de Lucy