ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

内閣不信任案が否決され、VOX孤立。

 

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今日も昨日に続き、国会ではVOXが提出した内閣不信任案に対する各政党代表の演説が続きました。

スペイン中が注目していたのは、PP(民衆党)のカサド党首の演説。昨年の総選挙で大幅に議席を失って以降、中道から更に右に舵を切ってきたカサド党首は、サンチェス首相率いる革新系連立政権をことごとく批判し、攻撃し続けて来ましたが、その主張は多くの部分でVOXのそれと非常に近いものでした。なので、今回の内閣不信任案に対しても、法案自体の可決はあり得ないと分かっていても、現役政権を否定する意味で賛成票を投ずるか、あるいは棄権するのではないかという思惑が民衆党内にもあったようです。ところが、国会でこの法案の審議が始まる前日辺りから、「民衆党はVOXとは違う」という論調に傾き始めたようで、結局、今日のカサド党首の演説では、VOXに対して「我々はあなた達とは違う!あなた達の党は消滅する運命にあるが、我々民衆党はここに生き続ける!あなた達のたわごとに付き合うつもりはない、今ここではっきりとNOを突き付ける!」と、かつてない強さでVOXと一線を画すことを宣言しました。このカサド党首の決別宣言は、当のVOXにとって思いがけないものだっただけでなく、すべての政党にとっても予想外だったようです。

 

スペインに17ある自治州政府の内、マドリッド、アンダルシア、ムルシアの3つの自治州政府は民衆党の知事が治めていますが、いずれも民衆党・Ciudadanos・Voxの3党による保守系連立政府であり、連立を可能にしたキャスティングボートを握っていたのはVOXでした。

カサド党首の演説を裏切りととらえたVOXはすぐさま、「これら3つの自治州政府においては今後、予算案をはじめとする法案可決は難しくなるだろう」 と民衆党に圧力をかけ始めています。

 

一方、サンチェス首相(社会党党首)は、カサド首相の演説を「民衆党がハンドルを切り、中道へ軌道修正した」 と称賛し、暗礁に乗り上げていたCGPJ(司法総評議会)のメンバー更新に関する民衆党との交渉を再開したい、と自らの演説の中で直接、カサド党首に呼び掛けました。このサンチェス首相のオファーには、以前に民衆党との合意が土壇場で破棄されたためにCGPJメンバー更新に関する法案が可決に必要な下院議席の3/5に届かず、膠着状態にあったことから、政府は10月半ばにCGPJメンバー入れ替えの基礎になる法律自体を議席数の過半数で可決するように改正するという案を示していたところ、EUから司法の最高府の構成を左右する法律をそのように変えることはEUの規則に抵触する、として待ったがかかっていた背景がありました。

 

すべての政党の代表が内閣不信任案に対する演説を終えた後、投票が行われました。賛成票はVOX議員の52票のみ、棄権票はゼロ、その他の政党はすべてNOを投じて反対が298票という結果になりました。これを受けてメディアは 「スペインの政界が極右ポピュリズムに背を向けた!」とか、「保守政党間で戦争が始まった!」とか、「社会党と民衆党が接近すると、革新系連立政権内におけるPodemos Unidosの地位が危うくなる!」などと様々な見出しを付けています。

 

そんな中、少し前まで、民衆党の国会スポークスマンだったアルバレス・デ・トレド氏の分析が興味深いです。「VOXの主張を否定すると同時に、現政権の存続にも同意しないという意向を示すには、民衆党はNOを投ずるより、棄権を選ぶべきだった。サンチェス政権の不信任を求めるアバスカル党首の演説は、現政権に対する攻撃に終始していて全く建設的ではなく、彼らの常套手段である ad hominenに満ちていた。」 と述べています。ただ、投票においては党の方針に従って、彼女自身もNOに票を入れています。

ところで、ad hominenというこのラテン語の意味するところを調べると、Wikipediaに 「ある論証や事実の主張に対して、その主張自体に具体的に反論するのではなく、主張した人の個性や信念を攻撃すること、またそのような論法で、論点をすりかえる作用をもたらす。人格攻撃論法ともいわれ、論理性や合理性を持って判断するクリティカル・シンキングにおいては論理的な誤りである誤謬のひとつとされる」 とあります。

VOXが政治の表舞台に登場して以来、彼らの論法に不快感を覚えたのはこういうことだったんだと納得。ロジカルな議論をする気は最初からなく、論点をすり替えた個人攻撃や証拠となる正しいデータに基づかない主張を繰り返す、その結果、政界や国民の中に対立と分断が生まれ、育って来ていたのですね。

 

今日、民衆党のカサド党首がVOXに対してBasta ya!(もう、十分だ!)と告げましたが、明日からスペインの政界が少しでも変わって行くのでしょうか。

 

それは誰にも分かりません。

 

おしまい。