ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

アフターM28、スペイン右傾化と極右ポピュリズムの台頭 (II)


今日も暑いです!

とはいえ、今年初の強烈な熱波は予報では一昨日の月曜がピークで、金曜から涼しくなるとのことなので、じっと我慢していればやり過ごせます。何週間も続いて先が見えなかった去年の今頃の熱波と比べると気持ち的に全然違います。

 

さて、一昨日は28M後の各市町村(Municipios)の動きを分析しましたが、今日は自治州(Comunidades Autonómicas)に関して見て行きましょう。

 

★スペインと日本の地方選の違いに関しては5月30日投稿のこの記事で説明していますのでご覧ください。

 

1978年に民主憲法が制定され、歴史や文化を尊重した形で地方自治体が誕生し、それまでの中央集権的な政権が独占していた様々な権利が自治州政府へ移譲されて行きました。

現在、スペインは19の地方自治体によって治められています。そのうちの17は自治州(Comunidades Autonómicas)で2つはセウタとメリージャという歴史的地理的に特殊な事情を有する自治都市(Ciudades Autonómicas)です。

自治州議会の議員を選ぶ選挙は基本的には市町村議会選挙と同時に行われるのですが、議会による首長に対する不信任決議、首長による議会解散、スキャンダルなどによる首長の辞任、などの諸事情により、それが前倒しされることがあります。

因みに、ガリシア自治州とバスク自治州は2020年に、カタルーニャ自治州は2021年に、カスティーリャ・イ・レオン自治州とアンダルシア自治州は2022年に自治州議会選挙が行われており、今回2023年の28Mで選挙が行われたのは、アラゴンアストゥリアス、バレアレス、カナリアス、カンタブリアカスティーリャ・ラ・マンチャバレンシア、エクストゥレマドゥーラ、ラ・リオハマドリッドムルシアナバラの12の自治州とセウタメリージャの2つの自治都市でした。

 

一昨日の記事で少し言及していたカスティーリャ・イ・レオン自治州ですが、スペイン民主化以降の自治州選挙において、最初の1期4年間のみPSOE社会労働党過半数を取り知事を出したのですが、1987年にホセ・マリア・アスナル氏が知事に選ばれて以降(アスナル氏はご存知の通り、後に1996年~2004年までスペイン中央政府の首相を務めています)現在まで歴代すべての知事はPP民衆党から出ています。

 

直近の自治州選挙は2022年2月で、それ以前はPPとCs(保守中道のシウダダノスと呼ばれた政党)との連立で議席過半数を獲得していたものが、この選挙でCsが事実上消滅し、VOX(極右)が一挙に台頭したため、過半数を達成するためにPPはVOXと連立し、スペイン政治の歴史上初めてVOXが自治州政府に入閣するマニュエコ自治州政府が誕生。このマニュエコ知事の政府では、コンセヘロとよばれる州政府組閣メンバーのうち、副知事、工業商業雇用担当、農業担当、文化観光担当の4名がVOXから入閣しているのですが、VOX主導のいくつかの政策、例えば畜産業の感染症に関する考え方など、スペイン中央政府やスペインが属すEUが既に制定している規則やルールから逸脱するものもあり、現場で混乱が生じているケースが散見されています。

今回28Mの選挙では自治州においてもVOXの台頭が顕著で、自治州議会過半数を獲得するためにPPがVOXと連立する州がいくつかあるようです。

 

 

では、マドリッドから見て行きましょう。

 

民主化後1983年から1995年まで3期、マドリッドはPSOE社会労働党の牙城であり、中央政府首相はフェリペ・ゴンサレスマドリッド知事はホアキン・レヒーナという伝説の人を生み出しましたが、1995年にPPのガジャルドン氏がその若さとカリスマで知事となり2期務め、彼がアスナル首相の中央政府に抜擢されると、今度は大ベテランのアギーレ女史が3期務めて、PP民衆党が長きにわたり主導権を握りました。アギーレ知事3期目にPP党内の膨大な汚職事件、グルテル事件が明るみに出てアギーレ氏は身を引き、彼女の右腕や左腕だった政治家3人が彼女の後を継いで知事になりますが、いずれも次々と汚職による検察の捜査の手が及んで辞任に追い込まれ、マドリッド州のPP幹部がほとんどいなくなった状態の所に彗星の如く現れたのが若くて美人でもの負けん気の強いイサベル・アジュソ女史。党内にも他に対抗馬なし、野党もパッとしない中、2019年の州議会選挙で過半数には若干足りないものの、単独で州政府を組閣。法案ごとにVOXの力を借りるという手法で今日までネオリベラリズム的政策をグイグイ推し進め、その犠牲になった人も多い反面、絶対的支持層も増えています。その結果は今回の選挙結果に顕著に出ていて、単独で絶対過半数を獲得。これからアジュソ女史は更に思いのままグイグイ突き進んでいくことでしょう。

 

ラ・リオハ自治州マドリッド同様、PPが単独で総議席過半数を獲得しています。

 

 

M28後の自治州政府組閣に当たり、最もメディアを賑わせている州のひとつがバレンシア州でしょう。

中央政府アスナル首相が政権を取った時代(1996年~2004年)バレンシア自治州もPP民衆党が大きな力を持ち、その後も2015年まで歴代自治州政府を牛耳ってきましたが、グルテル事件の発覚により、バレンシアPPの幹部が軒並み崩れ、2015年の選挙ではPSOE社会労働党27議席+Compromis17議席+Podemos8議席による革新系3党の連立政府が誕生していました。

 

しかし、今回の選挙結果では、Podemosが消滅したことで、PSOE31議席とCompromis15議席を足しても過半数50議席に届かず、PP40議席がVOX13議席と連立して政府を組閣となるのですが、ここでひとつ問題が発生。VOXの自治州議会候補リストのナンバーワンのカルロス・フローレス氏は憲法を専門とする法学者でバレンシア大学の教授なのですが、2002年に、前妻に対する精神的虐待(常習的虐待、脅迫、名誉棄損など)を裁判で認められて禁固一年の判決を受けているため、PPとしてはVOXとの連立は不可欠なものの、連立州政府への彼の入閣は認めないという形で交渉を続けた結果、カルロス・フローレス氏は自治州政府には入閣しないが、7月23日に予定されている総選挙(国会議員選挙)において、VOXバレンシアのリストナンバーワンとして候補することになりました。

PPのカルロス・マソン氏が知事となって組閣する州政府では、VOXから3名が入閣、元闘牛士ビセンテ・バレラ氏が副知事兼文化担当となり、他の2名が農業と司法の担当となる模様。

PPとVOXの連立条件の中には、現中央政府が成立させたフランコ独裁時代の扱いに関する法律を無効にする、DV女性に対する性虐待の存在を認めない、LGBT法を無効にする、などスペイン中央政府EUの政策と衝突するものが散見され、カスティージャ・イ・レオン州同様に州民生活の現場で問題が生まれことを想像するのは難しくない状況です。

 

昨日、6月26日にバレンシア州議会の議長に、VOXのジャノス・マソ女史が選出されたのですが、彼女はラディカルなカトリック主義者であり、性教育の否定、妊娠中絶反対などを主張していることから、議長としての動静が注目を集めています。

バレンシアと同じような状況にあるのが、ムルシア自治州アラゴン自治州、バレアレス自治で、いずれも得票数の一番多いPPが3番目に得票数の多いVOXと連立して自治州政府を組閣する(2番目は得票はPSOE)ことになりそうです。

アラゴン自治州では州議会議長に選ばれたVOXのマルタ・フェルナンデス女史が、着任早々「Violencia de Genero(男性による女性虐待というDV)は存在しない、家庭内暴力と表現すべき」と公言、スペイン中央政府EUもViolencia de Generoという表現が確立していてその根拠となる法律も存在することから、物議を醸しています。バレアレス自治でも、バレンシアアラゴンと同様に、州議会議長は、VOXから選出されています。

 

 

今回の選挙で唯一、PSOEが単独で絶対過半数を獲得したのが、カスティーリャ・ラ・マンチャ自治州

カスティーリャ・ラ・マンチャと言えば、PSOE社会労働党の中でも際立った力を持った政治家ホセ・ボノ氏が1983年から2004年まで、6期続けて知事を務めた自治州で、PSOEの力が強い地域でした。ところが、2011年、アスナル首相の時代にPPの中央政府内閣で活躍したコスペダル女史が、地方政治に舞い降りて自治州の政権を握り、多くの支持者を得ます。しかし、巨大汚職グルテル事件で彼女も崩れ、2015年以降は、ホセ・ボノ氏の後継者ともいえるガルシア・パヘ氏が再度PSOE政権を取り戻し、今日まで2期、知事を務めていました。前回の選挙から2議席減ったとはいえ、17議席単独過半数を獲得し、ガルシア・パヘ氏は3期目に突入です。

中央政府の首相であるペドロ・サンチェス氏は、PSOE内のパワーゲームを勝ち抜いて若くしてナンバーワンとなり、2018年5月にPP政権のラホイ首相に不信任決議をぶつけて、驚くべきパワーとスピードで同年6月に首相に就任した訳ですが、そんなPSOE内でサンチェス氏といくつかの政策において一線を画してきたのがこのガルシア・パヘ氏。今回の選挙は多くの市町村はもとより、いくつかの自治州政府においてPSOEはPPに与党の座を明け渡してしまっている中、唯一PSOEの絶対的勝利を得た訳で、今後、PSOE党内におけるガルシア・パヘ氏の力が大きくなるだろうと言われています。

 

 

自治州政府組閣に関して、今一番揉めているのがエクストゥレマドゥーラ自治でだと思われます。

この自治州は1983年に最初の選挙が行われて以来、2007年までの24年間、PSOEのロドリゲス・イバーラ氏が6期連続で知事を務めて来た、PSOEの牙城ともいえる地域です。2011年から1期だけPPが自治州政権を握ったことがありましたが、2015年にはPSOEが返り咲いてフェルナンデス・バラ知事が誕生、2019年の選挙でもPSOE単独で絶対過半数を獲得して、同知事は現在まで2期目を務めていました。

ところが今回、PSOEとPPは両者とも28議席獲得して拮抗し、PSOEは4議席獲得したPodemosと連立しても過半数に届かない事態。PPは5議席を得ているVOXと連立することで過半数に達することができ、PPナンバーワンのグアルディオラ知事が誕生すると見られているのですが、これが今揉めているのです。

28M選挙直後にPPエクストゥレマドゥーラのナンバーワンであるマリア・グアルデクイラ女史は「VOXの価値観や政策を共有することできないので、VOXから自治州政府への入閣はあり得ない!」と公言していたのですが、その後、バレンシアムルシアアラゴンなどの自治州で、PPがVOXとの連立政府樹立へ舵を切っている中、彼女に対してPP本部からの圧力がかかり、一転してVOXとの政策プログラムによる連立(政府への入閣は引き続き拒否している)を模索する態度に変わり、VOXとの交渉にはもう少し時間が必要と主張しています。

 

PP民衆党の中にもVOXを自治州政府のメンバーに入閣させることをまったく問題としない派閥と、なんとかVOXの入閣を避けてPPの政策を展開したい派閥とがあるようですが、現時点では党内の実力者であるマドリッド知事アジュソ知事をはじめとする前者の派閥の力が優っている様に見えます。

 

このように、未だにいくつかの自治州政府の組閣が決まらない状態の中で、23J(7月23日)総選挙は、正式な選挙戦が始まる前から、既にスペイン各地で「暑い」前哨戦が繰り広げられています。

23Jでスペイン国会と中央政府においても右傾化が進むのか、あるいは革新勢力が歯止めをかけられるのか、真夏に実施される異例の総選挙は、スペインの熱波同様にとても熱いものになりそうです。

 

ところで、娘のルーシーも、あと1カ月で14歳。

いろんな病気と闘って、その都度おどろくべき生命力で頑張って来てくれたルーシー。

心からありがとう! そして元気でいてね。

 

Madre de Lucy