ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

アフターM28(2023年統一地方選挙)スペイン右傾化とポピュリズムの台頭 (I)

 

スペイン語でSolsticio de Veranoと呼ばれる夏至が過ぎ、サン・ホアンの祭りが過ぎるとスペインは夏本番!という感じですが、まさに、6月24日から今年最初の熱波がスペイン全土を襲来。土曜、日曜と気温が上昇、今日月曜がピークとか。今日のマドリッド、最高気温38度、最低25度です。

 

さて、前回の投稿からちょっと時間が経ってしまいましたが、アフターM28の考察をしてみたいと思います。

★スペインと日本の地方選の違いに関しては5月30日投稿のこの記事で説明していますのでご覧ください。

 

まず言えることは、5月28日の地方統一選挙の結果は、スペインの政治勢力地図を塗り替えたということ。

単純に最も得票数の多かった政党の投票数とそのパーセンテージだけを前回2019年の地方選の結果と比較すると、各市町村(Municipios)も自治州(Comunicades Autónomas)も、PSOE(社会労働党)の赤色からPP(保守政党である民衆党)の青色へ変わったところが圧倒的に多かったことが分かります。

 

 

けれども、前回の記事で書いたように、市長や自治州の首長の選出は、日本とは異なる形で行われる、つまり、各市議会や自治州議会で各政党が得た得票数に戻づいて行われるので、なかなか一筋縄ではいきません。

 

市政に関しては、選挙の投票日から3週間以内に新しく選出された議員による市議会が市長を選び、市政を司る政府であるAyuntamientoまたはGobierno Municipalと呼ばれるものを組閣する規則になっているので、遅くとも6月17日までに市長を決める必要がありました。

単独政党で議会総議席過半数を占めている場合は、その政党の候補者リストのナンバワンの人が市長となるので、すんなりと決まります。今回PP民衆党が余裕で絶対過半数を獲得したマドリッドがこの例。28M以前はPPだけでは過半数に達せず、保守中道のCs(Ciudadanos)という政党との連立政権だったけれど、28Mで絶対過半数獲得で再選されたPP民衆党のアルメイダ市長は今後の政策は彼の思うまま!となることでしょう。

 



 

それと対照的だったのが、バルセロナの市長の選出。

カタルーニャ自治州の首都であるバルセロナ市の場合、政党の勢力地図には保守革新のイデオロギーに更にカタルーニャ民族主義が加わるのでかなり複雑になります。

まず、「カタルーニャはスペインという国を構成するひとつの自治州である」という考えの上に立つ政党(全国政党)として、保守系のPP民衆党、極右的とみられるVOX政党、革新系(PSCカタルーニャ社会労働党、革新的なEn Comu党など)があります。

一方、カタルーニャ独立主義の考えの上に立つ政党(独立派)として、保守系政党(2019年の選挙ではJunts per Catalunyaという名前、それ以前はCiU、という風にその名称がその都度変わっているのが紛らわしい政党ですが、今回2023の市議選ではCompromis Municipalという名前で、とにかくハビエル・トゥリアス氏を市長に!という戦略で打って出た)と革新系政党(ERCエスケラ)や無政府主義に近い政党(CUP)などがあります。

 

 

マドリッドのように単独で市議会議席過半数を得た政党はなかったので、水面下でこれらの政党間での駆け引きが盛んにおこなわれたようです。6月17日午後17h00に予定されていた新しく選出された市議による最初の市議会での投票によって最多数の支持を得た政党の候補者ナンバーワンが市長となる予定で、当日午前中まではメディアやほとんどの政党もCompromis Municipal(独立派保守系)とERCエスケラ(独立派革新系)の連立によって16議席の賛成を確保して、ハビエル・トゥリアス氏の選出が確実と見ていたのですが、最後の最後で大番狂わせが起きました。

非独立派の革新系PSCカタルーニャ労働党は10議席、非独立派保守系PP民衆党は4議席、足すと14議席で、独立派の16議席に勝てない。2013年から現在まで2期にわたってその強いカリスマ性でバルセロナ市長を務めたアダ・コラウ女史率いる非独立派の革新系政党Barcelona en Comuは9議席を得ていたのですが、市長交代を望むPPが同女史が新政府に入ることに難色を示していたのです。最後まで態度を保留していたBarcelona en Comuは「アダ・コラウが新政府に入らなくても、独立派保守政党のハビエル・トゥリアス氏を市長にさせないことを優先する」 ということで、市議会開始直前に非独立派の連立を受け入れたため、PSC労働党+PP民衆党+Barcelona en Comuの議員の賛成23票を得て、PSC社会労働党のリストナンーワン、ジャウメ・コルボニ氏が市長に選ばれたのでした。

カタルーニャ自治州では地方農村部などに行くほど独立主義派が力を持っているようですが、首都であるバルセロナは、スペインの民主化である1978年の憲法制定後、1979年の最初の地方選挙以降、歴代の市長は非独立派政党PSC(カタルーニャ社会労働党)から選出されてきました。ところが2011年の地方選で初めて独立派保守系政党(当時はCiUという名前)のハビエル・トゥリアス市長が誕生し、2015年まで務めたのでした。

移民問題、住宅問題、福祉問題などに関する多くの不満が市民の間に募っていた中、2015年の選挙で彗星のように現れ、革新的な政策をマニフェストに掲げ、フットワークの良さで人々をひき付けて新市長に当選したのがアダ・コラウ氏、その後、2期に渡り、この革新政治を率いてきた同女史は、バルセロナ市政が8年前と同じハビエル・トゥリアス氏の手に戻ることによって自分らが築き上げてきたものを反故にされることは絶対に避けたかった、ということのようです。

 

スペイン第3の都市、バレンシアはどうだったのでしょう?

前回の選挙では革新系の2政党(Compromis10議席+PSOE社会労働党7議席)連立政権で市長はCompromisのジョアン・リボ氏でしたが、今回の選挙ではこの2党の連立でも過半数の17には届かず、最多の13議席を獲得した保守系PP民衆党が、過半数には行かないものの単独で市政を率いるとしてカタラ女史が市長に選ばれました。カタラ市長は、党是として「気候変動」や「女性に対する暴力」を否定するVOX政党との連立を拒否し、市議会では法案ごとに他の政党を説得しながら市政を行うと宣言しています。

 

パルマ・デ・マジョルカ市でも、バレンシアと同じような状況。

29議席のうち、11議席を獲得したPP民衆党、8議席を得たPSOE社会労働党、6議席を得たVOX党ですが、最多議席を得たPPは過半数に至らないながら、VOXとの連立は拒否し、単独で政府を組閣することを決断しました。

 

 

アンダルシア自治州の首都、セビリアはどうでしょう。

 

スペイン民主化以来、PSOEスペイン社会労働党の牙城であったセビリア市ですが、31議席のうち、絶対過半数には行かないものの、PP民衆党が最多の14議席、次がPSOEの12議席を獲得。前回選挙までの結果が逆転し、保守系の市長が誕生しました。セビリアではPPは極右政党VOXとの連立は不要でしたが、自治州のいくつかの首都ではPPとVOXの連立政権が生まれつつあります。

 

 

バスク地方はどうでしょう。

バスク地方カタルーニャ同様、保守革新という縦糸に加えて、民族独立主義という横糸が加わるので、その政治勢力地図は複雑です。

 

ビルバオ保守系民族主義政党PNVの勢力が強い街で、1979年スペイン民主化後に選ばれた歴代市長はすべてPNVから出ています。今回の選挙の注目点は、民族主義左派政党EH Bilduビルドゥが大きく躍進したこと。それによって前回より議席数を減らしたPNVは早速PSE-EE(バスク社会労働党)と連立して安定した政権を確立し、PNVのアブルト市長を選出しました。独立派保守系のPNVが保守系全国政党のPP民衆党ではなく、革新系全国政党のPSOE社会労働党と連立するの?と思われるかも知れませんが、中央政権(国会)においても、与党であるPSOE社会労働党は法案通過のためにPNVと組むことが良くあります。

 

今ではETAと言っても知らない人が多いかも知れませんが、「バスク祖国と自由」という意味を持つこのテロ組織は、フランコ独裁政権下の抑圧に反発する形で1959年に結成され、スペインとフランスにまたがるバスク民族居住地域をひとつの独立国家として分離させることを目的として多くの活動を行ってきました。そのETAが2011年10月にテロ活動放棄を一方的に宣言し、2018年にその存在の完全消滅を宣言した訳ですが、ETAの政治的母体であったHB(HerriBatasuna)は民主化後の選挙でもバスク地方においてはかなりの支持を得ていました。北アイルランドIRAとSinFainの関係に似ているかも知れません。

1990年のバスク自治州選挙では18.33%支持率を獲得していたことに驚いた記憶が今も残っています。その後、HBが分解し、紆余曲折を経た後、Bilduを経て2012年にEH-Bilduとして生まれ、現在に至っていますが、今の中央政府の革新系連立政権では国会での法案通過におけるキャスティングボートを握る政党のひとつとなっています。

 

セン・セバスチャン市は、民族派の2党(保守のPNVと革新のEH Bildu)の力がかなり拮抗している所です。2011-2015にBilduが、2015年から現在まで2期、PNVが政権に就いています。今回はEH Bilduがに議席数を増やし、PNVと1議席差に迫りましたが、PNVは速やかにPSE-EEとPPと連立することで、安定した政権を作り、ゴイア市長が3期目を務めることになりました。

 

 

カスティーリャ・イ・レオン自治州の首都であるバジャドリ市は、まさに昨年2月に行われた(諸事情で前倒しとなったケースのひとつ)自治州議会選挙で起こったことのデジャブのような様相です。

バジャドリ市はスペイン民主化後の1979年の選挙以来、PSOEが4期16年、PPが5期20年、そして2015年から2期8年再度PSOEというように、2大政党が交互に政権を握ってきました。

今回の選挙の結果は、この2大政党が獲得した議席数が同じ11議席で拮抗し、3番目に3議席を得ていた極右政党VOXがPPと連立して新政権に参入。コンセハルと呼ばれる市政府の閣僚にあたる13名のうち、副市長、医療と治安担当責任者、商業と消費の担当責任者の3名がVOXから選ばれました。保守革新を問わず他の民主政党とはその主義主張を異にするVOX(地球温暖化を否定、女性に対するDVの存在を否定、LGBTを否定、など)が市政府の重要なポストを占めることで、様々な問題が生まれる可能性は、既にカスティーリャ・イ・レオン自治州政府の前例で散見されています。

 

同じことがカスティーリャ・ラ・マンチャ自治州の首都であるトレド市でも起こっています。

トレドと言えば、日本の奈良や京都を思い浮かべる古都、6世紀西ゴート族の時代から文化と宗教の中心となってきた街です。

ここトレドはスペイン民主化後の1979年の選挙以来、PSOE社会労働党とPP民衆党の2大政党が交互に政権を握ってきました。

2007年から現在までの4期、市長はPSOEから出ています。前回2019年の選挙の際は、革新系連立(PSOE12議席+Podemos IUが2議席の合計14議席で25議席過半数達成)によってPSOEのトロン女史が市長となりましたが、今回の選挙ではPSOEが最も多い11議席を得たにも拘わらず、現行政府で連立していたPodemos IUが1議席しか得られなかったため、合計しても過半数に達しません。一方、9議席を得たPP民衆党と4議席を得たVOX党が連立することで過半数となり、PPのナンバーワンが市長に選ばれました。最も得票数の多かったPSOEのナンバーワンである現職のトロン市長は野に下り、7月23日に予定されている国会議員選挙に出馬する模様。

16年以上続いた革新系政府から極右政党と連立した保守系政府に変わることで、DV問題、LGBT問題、環境問題などその政策に変化が現れるかも知れません。

 

と、ここまで、統一地方選28MのElecciones Municipales(市議会選挙)の結果とその後のAyuntamiento(市政府)組閣に関して、スペインの代表的な都市の例をいくつか見てきました。

ほとんどの市町村で保守系政党PP民衆党と極右政党VOXが連立することで議会の過半数を獲得することが可能ですが、PPの中でも、VOXとの連立を拒否するところと、即座に連立するところと、市によってその態度はまちまちです。

 

次回は、統一地方選28MのElecciones Autonómicas(自治州議会選挙)に関して見て行きましょう。

 

Madre de Lucy