ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

コロナ禍は人災? 為政者の無能が住民の苦しみを招く?月曜から再度ロックダウン!

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昨日、マドリッド州政府のディアス・アジュソ知事が、コロナ感染拡大に対処するための緊急措置を発表しました。スペイン全体に8月からコロナ第二の波が押し寄せ、自治州政府と住民の努力の甲斐あって少しずつ改善をみせている自治州もありますが、全国的な数字は今も未だ増加を続けています。そんな中、ずーっと最も高い感染率を維持し続けている不名誉な自治州が、3月の第一波の時にも最も大きな犠牲を出したマドリッド州です。

6月末、第一波が収束に向かい、新しい日常が始まった時に、マドリッド自治州では第一波の医療崩壊現場で自分たちの身を危険に晒しながら戦った医療関係者から、「第二波が来る前に、防波堤となるプライマリケアセンターを整備すべき。市民が体調不具合を感じた時に最初に診察を受けに出向くのがプライマリケアセンターのホームドクターであり、そこでコロナ疑いの患者に即PCR検査を行い、患者の周りの追跡調査を即時に行うことで感染を防ぐべき。そのためにホームドクターの数を増やし、PCR検査の迅速化を図り、追跡調査員を増やす必要がある」 と、州政府に訴えていました。

6月21日に緊急事態宣言が解除され、みんなが解き放たれて夏のバケーションや帰省を楽しみ始めていた頃、行政は第二波に備えて前述の医療関係者の提言に沿った感染予防システムの整備を進めてくれているとみんなが思っていたのではないでしょうか。すくなくとも私はそう信じていました。

 

7月末からスペインのあちこちでクラスターが見つかり、多くの自治州が様々な制限措置や大規模なPCRキャンペーンを展開。8月に入るとマドリッド州には多くのにエピセンターが発生、9月になると医療現場もすこしずつ逼迫するようになりました。プライマリケアセンターは医師が足らず、PCR検査を受けても結果が出るまで1週間から10日かかり、追跡調査を行うスタッフの不足から感染予防システムが意味をなさず、医療現場からのSOSが聞こえるようになると共に、感染拡大に歯止めがかからなくなってきました。

第一波の時のロックダウンはスペイン中央政府が警戒事態という法的枠組みを作り、それに沿った形でロックダウンを行い、拘束力を持つ形で外出や移動が禁止され、感染防止政策、医療活動、医療物資提供なども中央政府の一元的統括と管理の下で行われましたが、6月21日の警戒事態解除以降は、これら一連のコロナ対策措置の権限が各自治州政府に委譲され、その裁量に委ねられました。したがって、今は州ごとにコロナ対策や措置が異なります。

 

現行の中央政府社会労働党とポデモスウニダスという革新左派政党による革新系連立政権で、首相は社会労働党総書記であるペドロ・サンチェス氏。一方、マドリッド自治州政府は民衆党と中道保守系政党シウダダノスによる保守系連立政権で、州政府首長は民衆党のディアス・アジュソ女史。彼女は、現在の党首で民衆党の中でも保守派に属するパブロ・カサド氏の強い後押しで州知事になりましたが、それまで一般市民にとってはほぼ無名の人でした。グルテル事件(スペイン全国に広がる民衆党の汚職ネットワークを摘発した裁判)やプニカ事件(マドリッド自治州政府の歴代民衆党政府の汚職ネットワークを摘発した裁判)で、中央の政治においてもマドリッド自治州の政治においても、民衆党幹部が軒並み逮捕されたり、実刑判決を受けたりした結果、過去の汚職にまみれていなかった無名の政治家らが、第一線に浮上したということでしょう。グルテル事件判決後に内閣不信任案によって下野した民衆党の現在の党首パブロ・カサド氏しかり、民衆党が与党であるマドリッド自治州政府のディアス・アジュソ現知事もそうだし、民衆党が与党であるマドリッド市のマルティネス・アルメイダ現市長も同じです。

 

コロナ禍がスペインを襲う中、社会労働党のサンチェス首相が指揮する中央政府の対コロナ政策をことごとく批判し、サンチェス首相を攻撃して来たカサド民衆党党首、そしてマドリッド州ディアス・アジュソ知事も中央政府のコロナ政策を常に批判し続けて来ました。中央政府自治州政府が連携してコロナと戦うべき時、政党としての闘いが優先され、州民や国民、そして医療現場で戦う人たちの健康や命が置き去りにされたという気持ちを持った人は私だけではなかったと思います。

3月14日から6月21日まで、中央政府は国会に諮りながら警戒事態宣言法を合計6回にわたり延長して、法的拘束力を持ったコロナ措置を実施してきましたが、その間、民衆党や極右政党BOXはこの法律は基本的人権を妨げるものだとして、即刻解除すべしと訴え続け、ディアス・アジュソ州知事は州政府にもっと権限を与えるよう主張していました。だからこそこの法律が解除された6月21日以降、マドリッド自治政府は自分たちの権限で第二波に備えた準備を進めていると思っていました。

 

今、医療崩壊が目の前に迫り、第二の大きな波にのまれそうになっているマドリッド州、遅まきながらようやく州政府が昨日、緊急措置を発表しました。

その内容とは、州内37か所の「医療ゾーン」に住む人々(ほぼ86万人)に対して9月21日(月)からロックダウンが発令される、ということでした。

  • 医療ゾーン (zonas basicas de salud)とは何ぞや? 

スペインに住んでいてもあまり聞いたことのない言葉です。知事の会見では説明されていなかったようなので、メディアで紹介されている説明を見ると、ひとつのプライマリケアセンターに属する地域を意味する言葉で、市内の同じ地区が複数の医療ゾーンに分かれていることもあれば、隣接する複数の市の住民が同じ医療ゾーンに属することもある、とのこと。メディアなどで発表された医療ゾーンマップを基に、州民は自分が今回のロックダウンの対象になるかどう、調べるしかありません。

マドリッド自治州にある複数の市に存在する37の医療ゾーンが対象となるロックダウンを含む今回の制限措置、37のうちの26ゾーンはマドリッド市内にあります。我が家はその26のゾーンのひとつに入ってしまいました。

  • どのような基準で37のゾーンが選ばれたのか?

これに関しても、該当するゾーンに住む住民に対して州政府からの通達も説明も一切ないのですが、メディアの説明によると、10万人当たりの直近14日間の感染者数が1000人を超えたゾーンが対象となったそうです。37ゾーンはそのほとんどが州の南部に位置し、所得水準の低い地域に集中しているようです。我が家のあるゾーンは、30年近く前に私たちが住み始めた時は、マドリッド市のはずれにあるどちらかというとスペイン人の高齢者の多い、みんなが顔見知りと言う感じの村のような雰囲気の地区でしたが、この20年ほどで全く様変わりし、今では住民の半分以上が移民で、近隣から聞こえてくるのはスペイン語以外の言語の方が多いほどです。

  • 37のゾーンで具体的に何が行われるのか

★制限としては以下の内容が実施されるとのことですが、法的拘束力の根拠となるものが曖昧なため、21日(月)にディアス・アジュソ知事がサンチェス首相と会談して、マドリッド州に限定した警戒事態宣言発令の可能性も視野に入れて話し合う模様。

*不要不急の外出は止める。

*各ゾーンからの出入りの制限(仕事や学校に行く、医療機関に出向くなどの理由があれば可能)。

*公園や庭園の閉鎖。

*飲食、娯楽、文化などの施設で、収容定員の50%までに制限。

*自宅、レストラン、公共スペースなどで一緒に集まれる人数の上限は6名に制限。

*飲食などの営業は22h00までに制限。

具体的医療措置としては、37のゾーン全体で100万件の抗体テストを実施すると発表しています。37のゾーンのひとつに住む私もテストの対象のはずですが、今のところ全く何も知らされていませんが、そのうち通知が来るんでしょうかねぇ?

 

さて、ディアス・アジュソ州知事の発表後、州民は自分の住んでいる家、あるいは営業している店が対象ゾーンにあるかどうかを大急ぎで検索しました。道を挟んで一方の側はロックダウン対象、反対側は自由。こちら側の飲食店は22h00に閉店させられるのに、あちら側の店は午前1時まで営業可能なんていうところもたくさんあります。地図上で線を引くのは簡単ですが、現実にそこからの出入り禁止と言われても、誰がどうやってコントロールするんでしょう? 凄い数の警察官を各ゾーンの周辺に配備するの? 我が家で週に一度カートを引いて買い出しに行くスーパーは大通り沿いにあって、我が家が属す医療ゾーンの限界ラインはその大通りの途中にあるけど、そこから200メートルくらい先にあるスーパーに買い出しに行ってはいけないの? などなどいろんな疑問が出てきます。

また、ゾーンによって基本的人権を抑制されるのは、同じ州民の中に不平等を創るので司法的におかしい、納得できないという声も多く聞かれたりして、このロックダウンは物議を醸しています。

 

月曜から2週間、我が家もロックダウンされ、3月の第一波の頃のような生活に戻ります。大きな意味の不都合はありませんが、外出や移動制限をすることで感染阻止効果が得られるかと言う点には大きな疑問を抱きます。

対象となるゾーンは低所得層が多く、テレワークのできない職種、つまり、地下鉄やバスなどの公共交通機関を使って職場へ行き、製造業、サービス業など仕事を通して人と接することが多い。また、不法移民などが多く、狭い住居に多数で同居しているケースもあり、社会保障などセーフティネットでカバーされていないので、コロナ感染を疑っても仕事を休めないから出勤するし、やむなく子供も学校に連れて行く。

それに加えて、言語障壁や教育レベルなどの問題でコロナウイルスの特性や感染を防ぐための対策の本当の意味(マスク着用、手洗い、ソーシャルディスタンスの意味)を理解していない。

さらには、これらのゾーンではプライマリケアセンターの医師数が絶対的に不足していて、ホームドクターのアポが取れないという重大な問題がある。

 

ロックダウンを目の前にして今の自分の気持ちを表現すると、それは怒りでしょうか。ロックダウンになる前にさんざん呼びかけられていた感染防止対策(マスクの正しい着用、ソーシャルディスタンス、手洗い、大声で話さないなど)を守っていなかった一部の市民の無責任な行為に対しての怒り。第一波終息後の時間を利用して第二波に備えて医療現場の整備をしてこなかった行政に対する怒り。公共交通機関で安全な距離を確保するために地下鉄やバスの便数を増やして整備してこなかった行政に対する怒り。制限・禁止・自粛を求める一方でセーフティネットの充実を実践してこなかった行政に対する怒り。

欧州全体でコロナ感染者数が増えているとはいえ、ダントツトップを走っているスペイン。なぜなのでしょう? 

 

おしまい。