ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

元国王が姿を消した背景にある、スペインの政治というか政局というか・・・

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(画像は本文と関係なし。一昨日と昨日は前線通過でスペイン全土あちこちで雷と豪雨に見舞われた2日間でしたが、今日は嘘のように澄み切った青空です。一昨日の日の出と今日の日の出です。)

 

前回の投稿、「元スペイン国王、ファン・カルロス1が姿を消した」においては、

エル・パイス紙をはじめとする新聞記事を情報ソースとして、司法的事実と社会的な影響という観点でまとめてみましたが、政治的な観点はほぼ入っていません。なぜなら、かなりややっこしいことになっているからです。

ここでは、できるかどうか不安ですが、政治と言うか政局と言うかを説明してみたいと思います。

では、少し時間を遡って、以下の1)2)3)の記事(過去に投稿した内容)見てください。

 

1)2018年6月7日に別のブログにアップした記事

激動の2週間

今日は2018年6月7日木曜日。

5月24日から今日まで、スペインにとって激動の2週間でした。

5月24日、10年以上審理が続いて来た組織的汚職事件「グルテル事件」の最初の判決が全国管区裁判所で下され、与党民衆党による組織ぐるみの汚職体制の存在が司法的に肯定され、多数の民衆党政治家が有罪とされました。

これを受けて翌日25日に野党第一党社会労働党が内閣不信任案を国会に提出。国会で白熱した討議・答弁が繰り広げられ、6月1日(金)には内閣不信任案が可決され、現役内閣が倒れました。

350議席の国会でたったの85議席しか持たない社会労働党ですが、「汚職体制をこれ以上、見逃し続けてはならない」という国民全体の世論を背景に、ほとんとの野党政党を説得して政権交代を実現し、昨日、6月6日に正式に新内閣を発足させました。

新しい内閣は、首相以下15名の大臣から成りますが、その内の11名が女性。女性を登用しようと言う意図があったというよりも、各大臣の顔ぶれを見るといずれも担当分野で経験や実績を持つ人物で、「仕事のできる」人を探したらたまたま女性だった、という印象を受ける、納得できる人材に感じます。

スペインはここ数十年間、2大政党入れ替わりはあるものの、国会の過半数の上に胡坐をかいて組閣された政府が続いて来ましたが、昨日生まれた新政府はひとつひとつの政策、法案に連立を余儀なくされ、政治的手腕が必要とされるはず。激動の2週間の後、新政府にとって苦難の時代の始まりかな。

 

2)2020年1月6日Facebookに投稿した記事

2019.4.28の選挙では連立内閣の組閣ができず、結局、選挙のやり直しが必要となり、2019.11.10の二度目の選挙の結果、下院議席で最多数を得たPSOEの第一候補、ペドロ・サンチェスが首相として組閣することは決まったものの、どのよう形の連立政権を組閣できるかをめぐり、国会での攻防が続いていた1月6日書いたのが以下の記事。

スペインでは2019年は4月28日と11月10日、2回も総選挙があったけど、結局、組閣がならず、4月からずーっと「暫定政府」の下、いろんな政策がストップしたままの一年だった。1回目の選挙の後、まーったく、連立がまとまらず、夏も過ぎ、9月末になっても自分らのことばっかり主張する政党ばかり。国民は嫌気がさして、勝手にしやがれーという感じだった。
で、11月10日に行われた2度目の選挙のあと、革新系連立政府?の組閣をめざして社会党(PSOE)とPodemosが選挙から48時間という驚異の速さで連立合意に達したけれど、その後が、またまた保守と革新を縦糸に、反独立派と独立派を横糸に、醜い政治絵巻が織られていたけれども、ここにきて、いよいよ明日1月7日、国会での最終投票。350議席の絶対過半数ではなく、投票数の多い方が勝利となる。
現時点で社会党(PSOE)のペドロ・サンチェスが唯一の首相候補、よって彼に対するYESとNOの投票となるが、現時点での予想はYES167、NO165、棄権18。YESが一票でもNOに代わったら、組閣できなくなる。そんな超ハイテンションの国会議員の中に11月10日の総選挙で初めて議員を1名当選させたのが「Teruel Existe(テルエルは存在している)」という団体がある。政党というよりも、過疎化に苦しむスペインの田舎を代表するために送られたギタルテ議員はプロの政治家ではなく、建築家を生業とする人。YES167の一人であるこのギタルテ議員にはここ最近、保守系政党からNOに転じるようにともの凄いプレッシャーがかかっているという。そんな中、彼は冷静にこう言う、「罵詈雑言で相手を罵倒する左右の政党の議員を見聞きするにつけ、そのレベルの低さにびっくりするが、何十年も置き去りにされ続けて来た過疎のスペインを代表する私が投ずる票は最初から決まっている」と。

 

3)2020年1月12日連立新政権誕生

これで組閣できなければもう後がないという状況の中、Podemos党首パブロ・イグレシアスと社会党(PSOE)党首ペドロ・サンチェスが連立の基本条件に合意、その後、組閣メンバーにPodemos党員を何名どのポジションに入れるかでかなり揉めたが、最終的には、サンチェスが苦肉の策とも奇策ともとれる方法で収束させた。2018年6月、内閣不信任案可決によって現役政権を倒した後に誕生したセンチェスを首相とする社会党内閣の構成は2019年の暫定政権の間も維持されてきたが、Podemosとは連立したいけれども大臣のポジションには入れたくないというスタンスのサンチェスは、党首イグレシアスを含む合計5名のPodemosメンバーを(それまで存在していた省の複数の機能を細分化して独立させるなどして)新たに創った5つの省の大臣に任命した。既存の重要な省の大臣は従来の社会党メンバーで固め、Podemosからは入れたくないという思惑が明らかだったが、Podemosはこれを飲んで、スペイン初の革新系2政党による連立政権が誕生した。連立2党の議席を足しても下院議席過半数に達しないため、法案ごとに野党のひとつひとつを説得しながら行かねばならないという茨の道が待っている新政権だったが、なんと誕生後2か月でコロナ禍に見舞われ、極右や保守系野党をはじめとする凄まじい反対と非難に立ち向かいながら、未曽有の感染症と戦うことになった。

 

2019年11月10日の総選挙の結果、下院350議席の党別内訳は多い順に以下のようになっている

社会党(PSOE)120 (革新中) ★与党

民衆党(PP)88 (保守)

ボックス(Vox)52 (極右)

Unidas Podemos – En Comu Podemos – En Comun連合 35 (革新左)★与党

エスケラ(ERC)13 (カタルーニャ独立派、革新左)

プルラル(Plural)12 (少数政党連合)

シウダダノス(Ciudadanos)10 (保守)

バスク民族党(PNV)6(バスク独立派、保守)

エウスカレリア・ビルドゥ(EH Bildu)5 (バスク独立派、革新左)

グルポミスト(Misto)9 (国会でグループを組織できない少数議員のグループ)

 

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さて、2)と3)のような経緯で組閣された現内閣ですが、与党も野党もテーマごとに考え方は分かれます。

そんな中、3月になるとコロナ禍が猛威を襲いますが、まさにそんな時に、元国王ファン・カルロス1世のスキャンダルがまたスクープされ、スペインの汚職収賄検察(Fiscal Anticorrupcion)がジュネーブ検察と協力してメッカのAVE入札にからんでサウジアラビアからの支払われた1億ドル(6500万ユーロ)に関する捜査が進む中、国会においても革新派野党(および与党内革新派)から国会内に調査委員会を組織して元国王を喚問すべきとの意見が何度も出されますが、その度に保守系政党および与党社会党の反対で実現しませんでした。

社会党が元国王召喚に反対したことに対して、連立組閣しているPodemosや革新派野党からも非難の声が上がり、国会においても連日、元国王喚問をめぐる論戦が繰り広げられる中、メディアもさらなるスクープを投下。さすがにサンチェス首相もこれ以上、国会への元国王の喚問要請を抑え込むことができないというギリギリの局面に来ていたのかも知れません。難しい局面に立たされたサンチェス首相と、困難な立場に追い込まれた現国王フェリペ6世との間で何らかの話し合いがもたれ、その結果、元国王が姿を消したのかも知れません。

でも、真実は誰にも分りません。

 

おしまい