ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

2020年、コロナとの闘い(全5回の5)

こんにちは。

別に開設しているウェブページ(https://www.michiko18.com/)内のブログに5回に分けて書いたものをここでも5回に分けてアップしています。

これは5回目の記事となります。

スペインに生きる私たちが、3月から7月までたどった記録として見て頂ければ幸いです。

 

5.コロナ第一波が去った今、思うこと

(2020年6月23日)

Covid19の感染拡大を受けて突然ロックダウンが始まったのは未だ冬でした。

そして今、完全に警戒事態が解除されたのは夏の始まり、ちょうど夏至の6月21日。 2020年の春はロックダウンの中で過ぎて去ってしまいました。

 

6月21日現在のスペインにおけるコロナ関連データ:(比較:世界/日本)

PCR検査によって判明した感染者総数:246,272 (8,773,957 / 18,472)

Covid19による死亡者数:28,323(464,866 / 967)

ICUで治療を受けた患者数:11,637

実施したPCR検査総数:2,536,234 (1000人当たり53.8件)

 

ながーいトンネルを抜けて、昨日から「新しい日常」です。この3カ月と言う時間は各個人にとっても社会にとっても、多くのことを教えてくれました。人との関わり方、医療制度や教育制度の不備、老齢者介護の問題、そして貧困。最悪の危機を乗り越えた今、様々なものが表面化しています。

 

最大の問題は公共医療が不十分であること。ICU病床など医療施設はもちろんのこと、医師や看護師など医療従事者の数の不足、そして今回、最前線の医師たちから多くの犠牲者を出した一因ともいえる、マスク・手袋・防護服など感染症予防資材の不足。コロナに感染した医療関係者の数は52,000で感染者全体の21%を超え、その内の63名が医療現場で命を落としています。

コロナ前、重度呼吸障害でICUに入る患者はスペイン全国平均でも各病院で年間1-2名だったところが、3月後半の最悪の時期にはマドリッド州だけで1週間に83名の重度呼吸障害の患者がICUに入り、ICU平均滞在期間は20日間、長い人は90日を超えるケースもあったとのこと。気管を切開してカニューレを挿入し、人工呼吸器に繋ぎ、麻酔で眠らせた状態で、うつ伏せの姿勢を定期的に変えながら治療を行う、このためには24時間体制で4名ほどの医師と看護師が必要になるそうです。爆発的に重篤患者が増える中、従来からあったICU病床はあっという間に埋まり、国際会議場や体育館などを急ピッチで仮設病院にすることでマドリッドバルセロナではICU病床数を3倍まで増やしました。一方、急性期を過ぎた患者や軽症患者を「医療化したホテル」などに移して、病院の患者受け入れ能力を増強。今日現在、ICUにはCovid19の重篤患者はほとんどいなくなりましたが、何週間も何カ月もICUで重度呼吸障害と戦って生き延びた患者は肺活量の減少はもちろんのこと、体中の筋肉をゼロから再教育していかないと、言葉を発することさえ難しい状態なのだそうで、彼らの闘病はこれからもずっと続きます。

 


その他に、高齢者施設の在り方。マドリッド州だけでも高齢者施設でCovid19で亡くなった人の数が6,000名に上り、当初のカオスの中、発症を家族にも知らされず、病院に移されてICUで治療を受けることもできずに施設内で死亡し、その遺体は家族に会うこともできずに火葬された多くのケースが今、発覚しています。全国で高齢者施設での死者総数19,535名、その中で民事裁判の申し立てが194件にもなっています。高齢者施設では第2波のリスクを前に、人材不足、緊急時プロトコルの欠如などの改善が火急のテーマのようです。

 

そして、もうひとつ、炙り出されたのが貧困層の増大という問題。

コロナ禍とロックダウンがすべての経済活動に大打撃を与える中、自営業者は一時休業補償や社会保険料猶予、被雇用者はERTE(一時的な雇用契約停止、コロナ禍終息後再雇用開始)、中小企業には借入金利子猶予など、政府の財政出動による様々な政策が実施されました。しかし、それでも救えない人たちがたくさんいることが顕在化しました。コロナ禍の前、2018年の調査で、衣食住にも事欠く貧困に苦しむ人が既にスペイン人口の5.4%にも上ることが分かっていました。今回の医療危機とそれに続く経済危機で仕事をなくしたり、収入を断たれた人やその家族は、住む場所を失い、食べるものを手に入れる術をなくしてしまいました。自治体などの行政が提供する福祉サービスだけでは追い付かず、自治会や町内会の有志やボランティアが寄付で集めた食料を配給し、それ求めて並ぶ人々の長い列があちこちで見受けられるようになりました。

 

6月21日(日)午前零時からスペインでは県や州をまたいでのすべての移動が可能になり、何カ月も会えなかった家族や友人に会うため多くの人々が陸路で、空路で、鉄路で移動しています。テレビでも久々の家族や友人との再開に喜び会う様子がニュースになっています。「新しい日常」ではマスクの着用、1.5メートルの距離確保などのコロナ予防基本規則が定められていますが、涙ながらギューッとにハグし合い、ほっぺをくっつけてキスし合っている映像がたくさんオンエアされています。一方で、そういう映像を見た医療従事者の人たちは「気持ちは分かるけど、みんながそれをやったら、またすぐに第2波が来てしまう。もう一度とあの修羅場をくぐりぬけることは不可能だ。」と警鐘を鳴らします。

 

 

並行して、昨日からEU・シェンゲン圏内の国々からスペインへの入国制限がなくなり(ポルトガルは7月1日から)、ツーリストが到着し始めました。EU共通の取り決めとして、出国時も入国時もPCR検査は行わないことになったので、スペインの空港の入国検査でも行われるのは検温、目視検査、質問票記入のみ。スペインの重要産業である観光業の再開は行政も率先して進めている訳ですが、欧州のあちこちで新たな感染が起こっている今、スペインも第2波のリスクは避けられないでしょう。

 

国民が公共医療を利用する際の最初の窓口がプライマリケアセンターのホームドクターです。中央政府が決めたロックダウン解除後のコロナ感染対策プロトコルには「Covid19の疑いのある患者はホームドクターにコンタクトし、即時にPCR検査を受ける」と謳われています。そしてその公共医療の運営管理は各自治州政府が行っています。マドリッド自治州は3月後半に医療崩壊を経験し、その後、まだ公共医療システムは正常な形に戻っていません。コロナ前はホームドクターの診察を受けるには、ネットで予約すれば普通は翌日にはアポが取れていましたが、コロナ感染患者が溢れてからはプライマリケアセンターはほぼすべて閉鎖、ホームドクターたちは仮設病院などに駆り出されてコロナ感染患者の治療に当たり、ほんの少数のホームドクターが電話でプライマリケアの診察を行うという変則的な状態が続いていました。「新たな日常」に移行した今も、その変則状態は改善しておらず、ほとんどのプライマリケアセンターではホームドクターに会って診察してもらうことが未だにできません。

 

 

 

マドリッドに住む私にとって昨日から始まった「新たな日常」は、体調が悪くてもホームドクターの診察は電話でしか受けることができないということを踏まえ、医者にかかる必要のないように緊張感を持って自己健康管理をしなければならない毎日となっています。

一日も早く治療薬やワクチンが完成し、それらを世界のすべての人が共有できるようになることを、こころから願います。

 

 

** ここまでが別ブログのコロナ関連5回目の記事です **