ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

ガルソン判事の会話傍受指示に関する裁判、ついに結審

またまた、堅い話でなんですが、2012年1月16日から18日に行われた口頭弁論の概要をまとめてみました。

被告;ガルソン判事とバエナ弁護人:会話傍受は法律(刑事訴訟法51条2項)に則り、必要な手続きを踏んで行った合法的なもの
>無罪を主張
被告側口頭弁論の要点:
2009年2月6日のコレア容疑者とクレスポ容疑者の逮捕後、コレア容疑者は拘置所内から資金洗浄の指示を出し続けていたことが検察特捜部の捜査で判明し、外部との仲介役として資金洗浄プロセスの一端を担っていた容疑で両容疑者の担当弁護人だったロペス・ルバル弁護士が起訴された。その後、両容疑者は新たな弁護人としてモウルーリョ弁護士とチョクラン弁護士を任命。検察特捜部は引き続き両容疑者と外部との橋渡しとなる弁護人の会話の傍受を要請、ガルソン判事は主犯格が巨額の裏金を資金洗浄によって海外に移動させる危険を防ぐため必要と判断し会話傍受を指示した。
また、全国管区裁判所からグルテル事件を引き継いだTSJM(マドリッド高等裁判所)のペドレイラ判事も同様の判断から主犯格とその弁護人の会話傍受を引き続き行った。
捜査対象となったのは容疑者とその弁護人の会話ではなく、拘置されている容疑者と外界を繋ぎ資金洗浄プロセスに加担している可能性のある弁護士と容疑者の間で交わされた資金洗浄に関する情報である。容疑者と弁護人の間で交わされた容疑者の個人弁護戦略に関する情報には一切興味はなく、録音された会話記録の内、個人弁護戦略に関する部分は全て消去している。
上記のように主張、また、これらの点に関しては検察特捜部および実際に傍受を担当した司法警察の担当者の証言も一致。
なお、弁護側が要請した「傍受した会話録音の裁判官による聴覚」は受理され、最高裁判事らによる聴覚が行われた。
尚、これまで犯罪捜査に置いて容疑者と弁護人の会話傍受が行われたケースは他にも存在し、傍受を指示したことによって判事が告訴された例もあったが、犯罪性なしと判断されて告訴が受理されたことはなかった。今回のケースは判事が捜査過程で傍受を指示したことによって被告された始めての裁判である点を指摘。


原告;イグナシオ・ペラエス弁護士、コレアの弁護人チョクラン弁護士(両者ともかつて全国管区裁判所で検察官を務めており、ガルソン判事の元同僚)、クレスポの弁護人モウルーリョ弁護士の3弁護士。
刑事訴訟法代51条2項で定める会話傍受が認められるのはテロリズム犯罪の場合だけであり、さらには新たなテロリズム行為の危険がある場合に限られるので、今回のケースには適用できない。
法律に定められる容疑者の弁護を行う権利を犯す。判事としての背任行為。
>17年間の判事資格剥奪を求刑。
原告側口頭弁論の要点;
ペラエス氏;弁護士として容疑者の弁護を行う権利を侵された。ガルソン判事は弁護士が弁護依頼人との会話を傍受することが違法であることを知っていながら故意にそれを行っており、これは判事としての背任行為である。弁護を行う権利の侵害だけでなく、容疑者が自らの弁護を行う権利と個人の秘密を守る権利をも侵害している。
チョクラン氏;犯罪人の弁護人が全て犯罪に加担している訳ではないし、その仮定をすること自体が背任行為である。また、捜査する犯罪の重篤度によっては会話傍受が合法性を得るという解釈は偽りであり、国際的資金洗浄システムや犯罪組織の存在をほのめかして国家権力で威圧することは法治国家においてあるまじき行いである。今回の裁判の原告としてスペインの弁護士会がひとつとして名を連ねなかったのは非常に遺憾である。


検察:
捜査に必要不可欠と判断される場合には合法的に容疑者と弁護人の会話を傍受することが可能である。
>会話傍受は合法な形で行われており背任罪は存在しない。
検察側口頭弁論の要点
バルカルセル検察官;原告側が「刑事訴訟法代51条2項の適用はテロ犯罪の場合のみ、かつ新たなテロ行為の予防のためのみに可である」とした憲法裁判所の一判例を基にしてのに対して、次の2つの具体的な例を示した。ひとつはマルタ・デル・カスティーリョの殺人・遺体隠蔽を捜査しているセビリア高等裁判所の判事が被疑者として上がっている全ての人物の会話を傍受するように命じたケース。これはテロ犯罪ではなく、新たな犯罪の危険はなかったが、遺体の行方を知るために命じたもの。
もうひとつは、マドリッド拘置所に収容されていた麻薬密売組織の主犯格が、刑務所内から検察麻薬特捜部の最高責任者を暗殺する計画を企てていた際、弁護士も含め容疑者との面会者の全ての会話を傍受したケース。これは新たな犯罪を防ぐためではあるが、テロ犯罪ではなかった。これら2件の裁判の捜査を指揮した判事はいずれも、会話傍受指示によって告訴されていない。
このように、刑事訴訟法第51条2項の適用解釈にはいくつかの異なる判例があり、ガルソン判事の会話傍受指示は背任とは言えない。

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ついにこの裁判が結審、あとは判決を待つだけ。
最高裁が原告の要求を容れて「ガルソン判事の判事資格剥奪」の判決を下した場合、安心して胸をなでおろす人が沢山いることでしょう。

ガルソン判事に対する告訴が集中したのは2010年2月から3月。
まず第一に、全国管区裁判所にて歴史記憶法に基づいたフランコ独裁時代の犠牲者の身元確認(それら犠牲者を生んだ犯罪も浮き彫りになるのは必然)捜査を行っていたガルソン判事に対して、1977年の特赦法を無視して自らに権限のない捜査を指揮しているとして極右組織が同判事を背任容疑で告訴。
第二にグルテル事件捜査での会話傍受指示が背任行為であるとする告訴。
第三にニューヨーク大学講演でスポンサーだったサンタンデール銀行から収賄容疑での告訴。
そして、その結果、2010年5月14日、CGPD(司法評議会)の緊急会議が招集され、予防的措置という名目でガルソン判事の暫定的職務停止処分が決定されたのでした。

あれから1年半以上の時が流れ、ガルソン判事は今も判事資格を暫定的に剥奪されたまま。
今週結審したこの裁判で有罪判決が下れば、判事資格剥奪は永久的なものになります。
そうなれば、法曹界のタブーに挑んでフランコ独裁時代の大量虐殺犯罪を捜査しようなどという奇特な判事は彼の後には現れないでしょうから、歴史記憶法によって過去の記憶をほじくり返される不安にさいなまれていた人たちは、もうなにも心配する必要はなくなりますね。

鳴り物入りで歴史記憶法を世に送り出したザパテロ首相も任期を全うすることなく政治の世界を離れれ、歴史記憶法自体が歴史になってしまうのでしょうか。



おまけ:
堅い話の後は、ルーシーで和んでみましょう。

眠い、でも遊びたい。人生の2大欲求の狭間で悩むルーシー


丘の上野公園まで行くわよ!付いて来なさい!(運動部マネ風ルーシー)


そのくせ、登りきったら、こんなモードのルーシー


後ろに見えますのが、マドリッドの街でございまぁ〜す!
(晴天続きの今年の冬、地平線を覆うスモッグがマドリッドらしいです)