ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

2012年 試練の年 財政赤字削減政策の大鉈、第一弾

明けましておめでとうございます。試練の年の始まりです。

12月30日(金) ラホイ内閣発足後2回目の閣僚会議が開かれ、ついに財政赤字削減の具体的政策が発表されました。
閣僚会議後の記者会見に現れたのは、サエス・デ・サンタマリア副首相兼スポークスマン、モントロ財務大臣、デ・ギンドス経済大臣、そしてバニェス労働大臣の4人で、ラホイ首相は姿を見せず。

まずは副首相からサプライズの説明。前政権は2011年度の財政赤字GDPの6%になると言っていたが、政権交代して整理してみると実際はずっと大きく、8%に上ることが判明。よって、2012年度で財政赤字GDPの4.4%にするというEU連合に対する約束を達成するためには、当初予想されていた経費削減幅の16.500M(165億)ユーロではなく、その2倍以上となる36,000M(360億)ユーロの削減が必要となってしまった。これはザパテロ社会党政権から政権を引き継いだラホイ民衆党政権にとって大きな驚きであり、スペイン国民にとっても大きな試練となるが、ここで全国民が一丸となって決断し必ず今年度末までに財政赤字を4.4%まで削減しなければならない。つまり、社会党政権のつけを今、民衆党政権が国民と共に払うことになったから、みんなで頑張るっるっきゃないのよ!ということらしいです。
そして、具体的な政策に関しては、モントロ財務大臣から増税による財源確保と経費削減という2つの柱に関して説明が行われました。

まずは増収のためにIRPF (源泉徴収税) の増税。総選挙前の選挙期間中も選挙後の組閣までの期間も「増税はしない!」と明言し続けてきたラホイ氏とモントロ氏でしたが、「経費削減すべき数字が当初予想されていたものの2倍以上という現実を前にしては増税という手段をとらざるを得ない」として、非常事態だから増税ありよ!ということらしい。増税率に関しては下に薄く上に厚い、年間所得300.000ユーロ以上の高所得者には7%の増税率を適用し、自治州によって相違はあるものの、社会党政権時代に47%まで下げられた所得税最高税率が今回の増税で一挙に55%まで引き上げられることになる。
所得の高低に拘わらず一律に課税されるタイプの税金を引き上げることは消費をさらに低迷させるとして、IVA(消費税)に関しては増税しない
固定資産税に関しては、高額の資産に対しては税率の引き上げを行う。
増税はしない、でも赤字は削減する、というめちゃくちゃ胡散臭いマニフィエストを組閣早々に撤回したラホイ首相ですが、ふたを開けてみれば、その増収政策はまさに選挙のライバルだった社会党候補ルバルカバ氏が提唱した政策じゃないですか。ラホイ首相があくまでも「2012年末までに財政赤字GDPの4.4%にする」ことを至上課題とするのであれば、それを経費削減だけで達成しようとすれば、国民生活への負担、特に社会的弱者へのダメージが大き過ぎるはずで、マニフィエストを反古にしてでも増税を敢行したのはある意味、英断と言えるかも知れません。そしてその増税のやり方も結構リーズナブルなものだと感じました。

そして、もうひとつの柱は経費削減、レコルテ(予算カット)です。
まずは公務員給与を凍結すると同時に勤務時間を週35時間から37.5時間に延長。そして公務員数の削減、これは具体的には定年退職する公務員数に匹敵する新規採用を行わず、新規採用者数を退職者数の10%程度に留めるというもの。結果として、警察官、医師や看護師など公共医療サービス従事者、教師など教育従事者の数が減ることを意味するもので、当然、私たち一般市民の生活にも直接影響が出てくるはず。
また、GDPに対して高い割合の予算を国際協力に当て、国際支援の場に置いて大きな存在感を示してきたスペインでしたが、今回、国際協力予算を11億ユーロ削減。
2007年に社会党政権が施行した介護法に関しては、同法によってカバーできる対象を数年かけて漸進的に増やしていく予定だったものを、ひとまず2013年まで据え置くことを決定。中央政府が介護法を策定し、予算を自治州に配分、各自治州は具体的な介護サービス提供システムを組織し運営するとして、2007年から始動した介護システム、高齢社会という近未来の現実に対応すべく試行錯誤や紆余曲折を経ながらも前進して来た訳ですが、ここに来てその基盤となる法律と国家予算が凍結されてしまった。サービスの定義や提供の方法、従事する労働者の職種やタイトルなどなど、いろんな意味でまだまだ脆弱な分野である一方、そのサービスを必要とする人々はどんどん増えている介護という分野、5年間に積み上げてきたものが、この凍結期間によってダメージを受けるのは避けられないでしょう。

一方で、社会的弱者を保護するという民衆党のマニフィエストは守られ、年金の1%引き上げ、長期失業者に対する400ユーロの特別補助金継続、住居購入における税金控除の復活などが盛り込まれています。

また、モントロ財務大臣が発表したドラスティックな増税・経費削減策によって経済界や市場が動揺するのを危惧したデ・ギンドス経済省から「これら政策はあくまでも国家財政安定まで、2〜3年間の暫定的措置である。財産税や金融取引税は導入されない」などの弁明が行われていました。

年の瀬の12月30日に発表されたこの赤字削減政策、経費削減策によって89億ユーロ、増税によって62億ユーロ、合計で150億ユーロの赤字削減の実現を図るというもの。しかし、これはまだほんの序の口、今年度末までに削減すべき360億ユーロのうち今回の150億ユーロを引いても、まだ210億ユーロが残っているのです。サエンス・デ・サンタマリア副首相自らが言っているように、「赤字削減政策はまだ始まったばかり、ほんとうの正念場はこれから」ということでしょう。

上院と下院で民衆党単独で絶対過半数を占め、内閣は自分に絶対服従テクノクラートで固めたラホイ首相、有無を言わせない体制で打ち出した第一弾。新政権のやり方に対する賛否は別として、ある意味、有無を言わせず、目標と手段を明確に打ち出すことは、国民にへんな期待を捨てさせ、すっぱり諦めて、身の処し方を考えさせるにはいいのかも。もちろん、庶民にとって厳しい年になることは間違いなさそうです。心して、身を引き締めて向かわねば、と考えさせられた2012年元旦でした。