ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

ラホイ新内閣の顔ぶれ


12月20日にラホイ氏が首相に指名され、21日にラホイ新内閣の顔ぶれが発表されました。
さてその新内閣、テクノクラート集団、そしてとにかくラホイ首相の意のままに動く顔ぶれで固めたというのが特徴。
13人の内、女性は4人。PSOE政権ザパテロ首相が国民に対する規範としてまず内閣における大臣ポスト数の男女均等を実践していたのと対照的に、数においては圧倒的に男性優位の組閣となっています。
また、近年PP内閣もPSOE内閣も採ってきた副首相を二人置き、その内の一人は経済大臣兼任という図式(内閣の中でも経済相が他の大臣より力を持つ)を破り、副首相を一人にしたことが注目されます。その背景には、最年少で政治的経験も浅いSoraya Saez de Santamaria女史が他の大臣らよりも上に位置し、それらを統括する位置にあることを明白にするというラホイ首相の意向があるようです。同時に、経済省(大臣は金融畑のテクノクラート、Luis De Guindos氏)と財務省(Aznar時代から経済財務相を勤めた経験のあるCristobal Montoro氏)を同じレベルに置く事によって、Montoro氏の力を牽制しているのだとか。
金融市場や経営者層の興味を反映した顔ぶれ(Luis de Guindo氏やPedro Morenes氏の登用)が目立つ一方で、今まで農水環境省だったものが農業食料環省となり漁業が省として組み込まれていないこと、文化省が教育・スポーツ省に統合されたこと、科学省がなくなったことなどもラホイ内閣の予算カットの矛先がどこに向いているかを表しているのかも。財務省(Hacienda)と総務省(Administracion Publica)が統合されているのは、国家予算と自治州に配分する予算も一元的に管理して予算カットの大鉈を振るいやすくするためでしょうか。


新内閣の顔ぶれの中で、海外のメディアが注目し真っ先に報道したのが経済相に任命されたLuis de Guindos氏、52歳。リーマンショック勃発当時、リーマンブラザーズの幹部としてイベリア半島を統括する責任者だったそうです。現在のEU諸国が苦しんでいる国債危機や経済危機を招いた金融危機の元凶となったリーマンの幹部が今、スペイン経済を立て直すという重要な責務を背負うことになった訳です。リーマンブラザーズ退任後、Price Water Houseの役員を経てInstituto de Empresasの要職に就くと同時に、 Endesa(スペインの大手エネルギー会社)の役員、 Unedisa(大手出版社)の役員、 Banco Mare Nostrum役員なども兼任していたDe Guindos氏、 経済相に就任するとこれら役職全てを辞退する必要ありとのことですが、バリバリの金融人であることは変わりない訳で、この点に海外のメディアや市場が期待しているのでしょう。また、防衛大臣に任命されたPedro Morenes氏はミサイルなどの武器を扱う多国籍企業イベリア半島を統括する責任者。防衛大臣に就任するには当然この職を辞する必要あり。
金融会社社長が経済大臣になり、武器を扱う企業の社長が防衛大臣になる、一個人の中での社会的利益の公平性って観点から見て、これってどうなんでしょう? まぁ、ねぁ、IMF会長を辞めて一銀行の頭取に就任したり、経産省大臣を辞めてエネルギー会社役員に就任したりってことともある訳で、何を持って「インサイダー」って呼ぶか、難しいところなのでしょうけどね。


さて、今回のラホイ内閣の目玉は何と言ってもSoraya Saez de Santa Maria女史でしょう。弱冠40歳で、副首相、内閣府大臣、政府スポークスマンという3つの重要なポストを兼任、その上、今まで防衛省に所属していたCNI(スペインの国家諜報機関)の統括も行うことになった彼女、間違いなくラホイ首相の右腕と言えるでしょう。1971年バリャドリッドに生まれ、バリャドリッド大学の法学部卒、27歳で国家弁護士(Abogado de Estado)となりレオンに赴任。余談ですが、スペインでは法学部を卒業すると自動的にAbogado(弁護士)というタイトルを得られ、弁護士として登録することができますが、Abogado de Estadoは国家試験に合格した国家公務員としての弁護士資格。さて、そのSorayaさんですが、2000年に当時アスナル内閣の内閣府大臣だったラホイ氏の右腕Francisco Villar氏宛に履歴書を送り、レオンから路線バスに乗ってマドリッドに面接にやってきた。Villar氏とラホイ氏に気に入られ、PP党員でもなく、政治的経験が全く無いにも拘わらず、即、総務省のイベント運営チームにスカウトされました。頭脳明晰、物事を緻密に的確に処理し、組織する力、慎重で口の堅い性格、これらをを高く評価したラホイ氏の信任を得て、頭角を現し、ラホイ氏にとって無くてはならない存在となります。2004年総選挙でマドリッド州選出のPP国会議員候補リスト18番目で出馬するも、当選枠が17番目までで終わり選出されず。その後リスト2番目のRodrigo RatoがIMF総裁に就任するにあたり議員を辞職したため、繰上げで国会議員となったSoraya。2008年総選挙では同リスト5番目で立候補し、堂々の当選。ラホイの指名により下院におけるPPの国会対策スポークスマンとなる。国会の議場ではザパテロ政権の副首相兼政府スポークスマン、Teresa Fernandez de la Vega女史と度々激しい舌戦を演じ、PP党の記者会見ではスポークスマンとしてメディアを手玉に取り理路整然とした応対を演じ、一躍、知名度とメディアへの露出度を高めたSoraya、小柄でベビーフェイス、一見お人形さんのような容姿とは裏腹に、PSOE政権の政策や政治家を批判し糾弾しまくり、最大野党党首ラホイ氏の戦略を見事に体現したのでした。他を批判し糾弾する発言を続ければ、失言で墓穴を掘ったり、意図しないことで揚げ足を取られることがありがちですが、頭脳明晰なSorayaは与党にも、諸野党にも、メディアにもそのようなチャンスを一切与えませんでした。そして何よりも、政治的後盾も経験もなく突然現れた生意気な小娘に対してPP党内の風当たりも決して穏やかではなかったはずですが、ラホイ氏への絶対的忠誠、卓越した処理能力と組織力、慎重な態度によって見事にラホイ内閣のナンバー2に登り詰めたのです。一方、私生活でも35歳で結婚、今年11月11日に第一子を出産しています。11月20日の総選挙でPPが歴史的大勝を果たし、ラホイ内閣準備が始動。オーガナイズ能力において右に出るものなしと認められ、ラホイが最も信頼を置く彼女、産後2週間も経たない内に、PSOEザパテロ内閣からPPラホイ内閣への政権移行を速やかに行うための「政権移行委員会」のPP側代表に任命され、連日、首相官邸に詰めてPSOE側代表のRamon Jauregui氏と共に、EU債権危機の嵐が吹き荒れる中、異例のスピードで行われた政権移行業務に当たりました。これには、世の男性だけでなく、女性たちもびっくり。賛否両論あったものの、生まれたばかりの赤ん坊に3時間に一回授乳せねばならないということは全くおくびにも出さず、黙々とそして淡々と業務を遂行し、12月21日にはラホイ首相によって、ラホイ内閣における絶対的な力を持つ存在として明確に位置づけされました。まさにあっぱれ!という感じの豪傑ぶり。こんなことを言うと男尊女卑と言われそうですが、あえて言います、「女にしておくのは惜しい」。


Soraya Saez de Santamaria副首相