ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

Indignados(怒れる者たち)運動の広まり、 15-Mから15-Oへ

マドリッドのへそとも言われる市街中心地、プエルタ・デル・ソル(太陽門)広場から5月15日に始まった運動、通称「15-M」と呼ばれるIndignados(怒れる者たち)の抗議行動が、少しずつしかし確実に全世界に広がり、15-Oとして結実しました。


現在、世界を動かしている金融・経済・政治システムに大きなクエスチョンマークを突きつけるこの運動は、スペインの首都マドリッド守護聖人、聖イシドロの日(5月15日で祭日)にソル広場を占拠して始まりました。政治政党や政治的背景を持つ労働組合などとは一線を画し、特に若年層を中心に広がったこの運動は、PCや携帯を通じたSocial Networkを媒体として情報伝達や動員が行われているのが、今までの社会運動との大きな違いでしょうか。スペインの失業率は20%を越えており、若年層においてはほぼ50%が仕事に就けない現状で、大学や大学院を卒業したインテリ層も例外ではありません。2008年の金融危機で瀕死状態の金融機関や大手企業を救済するために巨額の公費が投入され、3年後の今、公費で救済された金融機関や大手企業の幹部が巨額の報酬を受け取っていたり、投資家が天文学的数字の利益を得たりしている一方、公費を投じた国家の財政は逼迫して破綻寸前、そしてその瀕死状態の国家財政は「市場経済原理」を振りかざす投資思惑によって翻弄され、窮地に追い込まれ、市場における信用を回復するため、熾烈な経費削減政策を課されています。経費削減政策は、社会福祉、教育、医療などの公共サービスの予算カットという形で国民生活を直撃、かつて銀行や大手企業を救うために投入された公費は私たち国民が納めた税金で賄われていたはずなのに、結局回りまわってつけを払わせられ、バカを見るの一般市民。こんな現実を前にして、多くの普通の人々は心の中に「釈然としない、納得できない、理不尽じゃないか!」という思いを抱えながらも、合法的になにもできない無力さを受け入れ、沈黙を守ってきた訳です。


5月15日から1ヶ月以上もソル広場にテントを張って占拠を続けた運動は、結局、国家警察によって強制撤去されましたが、物理的にソル広場から姿を消したとはいえ、InternetやTwitter, Facebook, TuentiなどSocial Networkを媒体とするすばらしい組織力と動員力でスペイン全土に様々な形で示威行動を広げていきました。8月にマドリッドでJMJ(世界カトリック大会)が開催された際の特定の宗教のイベントへの公費投入に反対する運動との連帯、住宅ローン返済不能による強制立ち退きで路頭に迷う人たちとの連帯、欧州国債危機やギリシャ財政破綻に対して教育、福祉、医療などの予算カットなどによる経費削減策を課するEUの経済政策への反対運動、マドリッド自治州政府の教育予算カットに対する抗議行動などが挙げられますが、いずれも非常に綿密に計画され、例えばデモ行進の場合などもスペイン各地の都市から集結し最終的に同時にマドリッドに集結する様にプログラムされていたり、あるいはマドリッド市内でのデモの場合も東西南北の各地点からデモ行進がスタートし、同じ時間に目的ポイントで集結して最終目的地に向かうなど、完璧にシンクロナイズされています。そしてこの15-M運動の一番の特徴は、暴力行為や暴動を徹底的に排除しようとしている点でしょうか。運動が起こって間もないころ、ソル広場を占拠して設営されたテントを警察が強制排除しようとした際に警察との衝突が起こり、どさくさに紛れて15-Mの運動に関係のない暴力グループなどが破壊行為や暴力行為を繰り広げたことがありましたが、それ以後、これら暴力グループとは一線を画すと共に、警察との衝突を避ける姿勢を明確にしています。また、6月にカタルーニャ州議会で財政赤字削減のための予算削減法案の決議が予定されていた日、議会入口前に集結して州議会議員が会議場へ入るのを力ずくで阻止しようとしたグループがありましたが、この行動によって会議場に入れなかった議員や軽いけがを負った議員が出た際も、速やかにこの暴力的行為を伴う抗議行動を非難し、今後も15-Mは一切の暴力行為を排除すると表明。


マドリッドから始まったIndignados(怒れる者たち)のデモ活動はフランス、ベルギーなどへ広がり、やがて海を越えてニューヨークでもOccupy Wall Street運動が生まれました。そして15-Mからちょうど5か月目となる10月15日、世界中の怒れる者たちが一斉に立ち上がり、82か国、951都市(スペインの60都市を含む)で統一スローガン「15-O, Unidos por un cambio global(10月15日、世界を変えるために一つなろう)」を掲げて全世界でシンクロナイズされた抗議行動が行われました。日本では東京/京都/大阪「10-15怒れる者たちの世界同時行動に連帯を!」というスローガンでデモ活動が繰り広げられたとのこと。
政治政党、宗教などと関係のない全くの一般市民が世界中で同時にこれほどの規模のシンクロナイズされた行動を起こしたこの15-O、とてもエポックメーキングな出来事といえるのではないでしょうか。
15-Oのデモが行われた都市が表示されたマップはこちらhttp://map.15october.net/


マドリッドでも15日は見事にシンクロナイズされたデモ行進が組織され、マドリッドの近郊5つの地点から出発したデモ行進が18h00にシベレス広場(サッカーのレアルマドリッドが優勝すると選手やファンがよじ登るので有名な女神シベレスの像と噴水がある広場)で合流した後、この運動が生まれた場所ソル広場で集結し抗議声明を発表、その後、いくつかのグループに分かれ、Indignados活動が抗議する現システムの問題点に対していかにアプローチすべきか、また今後の活動方針などを討議。
スペイン政府や警察、メディアも具体的な参加者数を発表していないようですが、15-Oにはバルセロナで40万人が参加、マドリッドのソル広場に集結した人数は50万と、Europa Press紙が報道しています。
El Pais紙に掲載された「マドリッドのシンクロナイズドデモ行進が一目で解る表」はこちらhttp://politica.elpais.com/politica/2011/10/14/actualidad/1318622901_205874.html 


その後、今日17日の時点で、15-O運動の一部のグループはバルセロナおよびマドリッドでそれぞれ一か所、閉鎖されて空き家状態となっているホテルを占拠し、住宅ローン返済不能による強制退去で家を失って路頭に迷っている人々を収容するべく、ボランティアたちがそれぞれの担当別作業グループに分かれて建物の清掃や内装補修、食糧調達など、準備を進めているようです。行政当局や警察も今のところ強制排除は検討していない模様で、とりあえずは状況を静観と言ったところでしょうか。