ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

9月30日の夜、マドリッドで起こった恐ろしい事件

9月30日、マドリッド市内の北、チャマルティン駅近くの住宅街にあるカトリック教会、金曜日の夕方20h00からのミサに参加するため周辺に住む信者が三々五々集まってくる(一般家庭の夕食は21h30とか22h00なので、20h00とは言いながら、夕食前で夕方と言う感覚です)中、そろそろミサが始まるという頃、教会内には20人ほどの信者がいました。その中に、36歳のAさんもいました。妊娠中で出産予定日を来週に控えてる彼女、初産なのでガリシアの田舎からお母さんが上京していて、今日もお母さんとご主人と3人一緒にこのミサにやってきたのでした。ひとりの男がAさんの横に来ると、なんの前触れもなく彼女の頭にピストルをつけて発砲、夫も母親も何が起こったか解らない中、彼女は床に崩れ落ち、男は数列前にいた別の52歳の女性Bさんの背中めがけてさらに2回発砲した後、祭壇の近くに走って行き、そこで自らの口中に発砲して倒れ込みました。
数分後にSAMUR(公共医療サービスの救急医療チーム、日本と違う点は医師が乗り込んでおり現場で必要な医療行為を行うことができる)の救急車が駆けつけた時、Aさんは既に心停止していて成す術はなかったそうですが、医療チームはなんとか胎児を助けようとその場で帝王切開を開始。努力の甲斐あって赤ん坊は一命を取り留めましたが、母体の心停止状態での手術だったことから、新生児は今後も予断を許さない状況だとか。一方、Bさんの方は大怪我を負って病院に収容されましたが命に別状はないとのこと。犯人の男Cは即死状態で、SAMURチームは死亡確認をすることしかできなかったそうです。犯人は32歳、無職でホームレス。20歳ころから麻薬などで何度も逮捕歴あり。元彼女Dさんに対する暴力行為で訴えられDさんに近づくことを法律で禁じられている状況だったそうですが、そのDさんも現在妊娠中で、来週に出産予定とのこと。警察の調べによると、犯人Cと発砲されて死亡したAさん、および同じく発砲されて怪我をしたBさんの間には全く何の関係もないとのこと。
この事件、最初はまたもやDVの犠牲者かと思われたのですが、被害者は犯人と何の関係もない他人。つまり犯人は自分の元彼女DさんにDVで告訴され、彼女に対する憎しみを彼女と同じ臨月の女性Aさんに向けて発砲し、自殺する前にたまたま前にいたDさんに発砲したということらしいです。Aさんのご主人にしてみれば、悪夢以外の何物でもないでしょう。目の前で妻が殺されたショックの中、駆けつけた医療チームが心停止状態の母体から帝王切開で赤ん坊を取り出してくれたとは言え、それを喜ぶことさえできない状態だったとのこと。また、Aさんの母親もショック状態で、娘ではなく私が代わってやりたかったと叫び続けていたそうです。
犯人Cの中で、何かが壊れてしまったのでしょうか。あまりにも悲惨な事件です。
唯一の救いは、このような修羅場にも拘わらず、医療チームが全力を尽くして赤ん坊の命を救うことができたということでしょうか。現場の医療スタッフの志と力に支えられている公共医療サービス、普段はあまり垣間見ることのできない彼らの仕事ですが、今できることに全力を尽くすそんな彼らのプロ意識が、凄惨な出来事の中にきらりと光って感じられました。