ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

報道と政治

 
今日は朝から新聞もテレビもRTVE(スペイン国営放送)の話でもちきり。
テレビ、ラジオ、インターネットなどのメディアを持つRTVEは2007年から法人となり、その株は100%、スペイン中央政府の経済財務省に属すSEPI(国有持ち株会社)が所有しています。
経営に関する基本方針を決める経営理事会は12人の理事からなり、理事は政党や労働組合の推薦を受けた候補が国会で承認され任命されます。任期は6年で、6人ずつ入れ替えが行われるのですが、理事長を務めていたOliart氏が今年7月に突然辞任、後任の理事長が選出されないまま、現在は11人の理事によって構成されていて、その内訳はPP(保守系民衆党)4名、PSOE(社会労働党)2名、それ以外はCiu(カタルーニュア民族系保守)、ERC(カタルーニャ民族系左派)、IU(左翼連合)、CCOO(共産党労働組合)、UGT(社会党労働組合)からそれぞれ1名となっています。理事の年俸は120.000ユーロで、運転手つき公用車、秘書、アドバイザが支給されるのだとか。
9月21日に行われた理事会で、PPの理事が「TVE(テレビ)で放送するニュースの内容をその編集段階から理事がチェックできるようにする」という議題を提起し、PPとCiuの賛成票5、UIとUGTの反対票2、それ以外の理事は棄権したことによって、この案件が可決されてしまったのです。
この決議は、即、様々な分野に大きな反響を呼び起こしました。まず真っ先に抗議したのがRTVEの報道委員会、これは実際に報道関係の番組すべてを制作している部門の幹部組織ですが、委員長自ら声明を発表して「報道の自由を守り、政治の介入を許すべきでない」と真っ向から反対。TVEの報道番組はiNewsと呼ばれるツールを使って、現場の記者、編集責任者、編集にあたる様々な技術者が、それぞれの持ち場ごとにアクセスできるパスワードを持っていて、ニュースの選択、ライブ報道、挿入ビデオ、装丁、などの作業をしているもの。たとえ経営理事会のメンバーであっても、プロのジャーナリスト集団が行う作業に介入すべきではない、とRTVEの社員らもこの決議に反対の意を表明して立ち上がった。同時に、スペインのジャーナリスト連盟や、新聞記者連盟なども次々に反対の意を表明。さらには、与党野党を問わず、多くの政治家からも、報道の自由を尊重すべき国営放送に、政治的介入とは言語道断という声が上がり、結局、再度理事会を開き、決議をやり直すことになった次第。棄権したPSOEの理事は「あれは間違いだった」と言い、PPの理事も「もう一回、決議をやり直しましょう」と言っているようです。世論の総スカンを食ったとたん、みんなして「なかったことにしましょう!」って、あまりに安易ではありませんか? 
まぁ、でも、少なくとも、国営放送では、現場のジャーナリストたちが報道プロとしての誇りを持って、経営幹部に真っ向から反対の意を表す行動を起こし、世論もそれに賛同し、政治の介入を阻止したということに、久しぶりに民主国家スペインの良心を垣間見た気がしました。
軍事力よりも何よりも世界を牛耳るのはメディアの力と言われる現代、毎日何の気なしに見ているテレビですが、ほとんどのテレビ局は番組内容をその株主の興味に沿って操作されている訳で、よっぽど気をしっかり持っていないと、知らぬ間に洗脳されてしまうことも有るわけですよね。
昨年末、政治勢力と一線を画して硬派の報道番組を提供していたテレビ局、CNNプルスがなくなりました。その志の高さゆえに、経営難に陥り、母体であったPrisaグループも背に腹は変えられず、この局を手放すことを決断、そしてそれを買ったのがイタリア首相ベルルスコーニ氏率いる巨大持ち株会社Fininvestに属すMediasetとTelecinco。これで、スペインの民放のうち3社はFininvestが株主となりました。イタリアのメディアの7割を牛耳ると言われるベルルスコーニ氏、スペインも知らぬ間にこのメディア王の手が伸びているようですが、TelecincoやらCuatroやらを見ている人はそんなことを考えもしないでしょうね。
そうそう、報道への政治介入と言えば・・・マドリッドの人がみんな知ってる既成事実、Telemadrid。各自治州にはその自治州政府が経営に加わっている民放局が必ずありますが、マドリッド州の場合はそれがTelemadrid。まぁ、地方局ということで、州政府の知事がたくさん登場するのは当然とは言え、少しでも知事に批判的な報道をしたジャーナリストは姿を消してしまい、報道を行う局というよりも州政府プロパガンダを行う組織であることは、誰の目にも明らか。今年5月の選挙でPP(保守系民衆党)は圧勝して絶対過半数を獲得、知事のAguirre氏も第三期目に突入、ある意味独裁者ですよね。パッと見は、エレガントでたおやかな中年婦人という感じで、侯爵夫人でもあるAguirre女史、PP党内でも超タカ派ゆえに、内外に敵も多いことでしょうが、テロ攻撃に遭遇しても、ヘリコプター事故や自動車事故に遭っても全く無傷で生還し、癌治療にも負けずバリバリわが道を行くAguirre女史、その強運と意志の強さには頭が下がります。