ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

ちょっとお金の話を・・・(スペイン経済と日本のそれと)

あけてもくれても、金融市場では飽くなき欲の追求が続き、ECB(スペイン中央銀行)、ブンデスバンク(ドイツ中央銀行)、IMF、Moodys、Standand&Poorなどのちょっとした発言やちょっとした動きで、国債リスクプライムやら株価やらが上がったり下がったり、めまぐるしい毎日が続いております。
スペインはやばいやばいと言われておりますが、どのくらいやばいのでしょう。
確かに、全ての行政レベル、国家中央政府、スペインが17に分かれている自治州政府、そしてその下の市町村(Municipio)の自治体政府、いずれも財政難に苦しんでおります。EUがスペインの金融機関にお金を貸してくれるため、あるいはスペインの国債をECB(欧州中央銀行)が買ってくれる為、スペイン国家に緊縮政策を求め、中央政府は各自治州に緊縮政策を強要(州政府予算の歳出上限設定)、各自治体も財政赤字ゼロの大命題を頂き、税収を増やす手をあれこれ考えると同時に、予算カットの大鉈をバンバン振るっております。

スペインと日本の経済に関するいくつかの数字を並列してみました。人口は日本が1億1200万で、スペイン4600万の2.6倍。これだけ叩かれて騒がれているスペインと比べてみて、日本の数字は安穏としていられるものではないような気がします。

Wikipediaに掲載されている日本経済のページとスペイン経済の数字(2011年度)比較

最低限の生活と増税
さて、その叩かれ続けているスペインですが、9月1日からIVA(日本の消費税に匹敵)が21%に上がり、源泉徴収税率が増えで21%となり、電気代もガソリン代も交通費も上がりました。お金の無い人たちには、既にぎりぎりだった生活が、さらに厳しいものになっています。失業期間が長期になり、失業保険の給付期間が終了し、収入の無くなった人がたくさんいます。その人たちに対して、経済危機が深刻化して以来、前政権時代から「Plan Prepara(職業能力向上資金)」という名目で一月400ユーロ手当て支給を行って来ましたが、現政府は8月24日、この手当ての支給は継続するが、受給資格者の条件を厳しくすると発表。その条件とは、家族の単位を今まではたとえ両親と同居していても夫婦を一単位としたものを、今後は2世帯が同居している場合は夫婦も両親も合わせて一単位とする。そして家族一単位の月額収入を家族の人数で割った数字が、スペインの最低賃金の75%である481ユーロより低い場合のみ、このPlan Prapara手当てが支給される、というもの。
有効労働人口一人当たり、1ヶ月481ユーロで生きる。住む場所が確保されていて、返済すべきローンがなければ、あるいは扶養すべき子供がいなければ、最低限の生活をすれば可能かも知れません。でも、現実には、ローンを抱え、家賃を払い、学齢の子供を抱えている多くの失業者がいます。私の身の回りにも、夫の親族やら、友人やらに、夫婦共に失業中で子供が大学生や高校生、というケースがあります。9月から公立大学の授業料が一挙に二倍になる学部もあり、授業料を払いきれず、学業を諦めねばならないという子供もいます。大学を辞めたからといって決して職に就ける訳ではなく、失業者が一人増えるだけ。上記の両国経済比較の「貧困率」でスペインが28%とありますが、ここに住んでいる者としては、本当はこの数字はもっと高いのでは?と感じてしまいます。国民一人当たりのGDPが32,120 USDとありますが、これは一部の大金持ちの人たちによって平均値が上がっているだけ。経済危機の前、つまりバブルの時代のスペインではミルエウリスタ(月給が1000ユーロの人)という言葉が「かつかつの暮らししかできないかわいそうな人」的な揶揄をこめて使われていましたが、最低限の生活を支える補助金さえもカットされてしまった人たちが溢れる今のスペインでは、月給1000ユーロの定収入のある人は、周りから羨望のまなざしで見られる存在へと変わってしまいました。

公共医療サービスから不法滞在外国人締め出し
もうひとつ、9月1日から発効した新しい法律があります。スペインに居住許可証無しに滞在している外国人でも、今までは住民登録さえすれば、公共医療ネットワークに登録され、医療カードを発給されて、ネットワークの医療施設で医療サービスを無料で受けることが可能でしたが、9月1日から不法滞在外国人は公共医療ネットワークから削除され、無料でサービスを受けることができなくなりました。様々な自治州の多くの医師たちが、この法律は医師の職業倫理および人道的倫理に反するとして反対運動を起こしていますが、この法律を施行するかどうか公共医療サービスを運営している各自治州政府に委ねられているため、以前のまま不法移民にも医療を提供し続ける州(アンダルシア州バスク州など)もあれば、きっぱり公共医療ネットワークから不法移民の登録を抹消した州(マドリッドなど)もあります。この法律で「唯一、居住許可証を持たない人に対して医療サービスを提供できるケースは、妊婦と子供、および救命救急医療を必要とする場合」とされていることから、今後、このような人たちが公共医療ネットワークの救急窓口に殺到することが予想され、本当に急を要する患者の救命に支障が生じるとする危惧の声が医療関係者および市民の間から挙がっています。救急医療は通常医療よりずっとコストが高いものなので、目の前の予算カットを目指すこの法律は、長い目で見れば結果的にシステムを破綻させると同時に公共医療システムのコストを増やすことになるとの専門家の声も聞かれています。