ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

デフィシットセロ(財政赤字ゼロ)

24日のスペインの新聞やらテレビやらのメディアは前日23日にザパテロ首相が国会で明かした憲法改正案の話題で持ちきり。通常なら8月は経済界も政界も一般市民同様に夏休みモードのはずが、今年はしょっぱなから国債のリスクプライムやら米国の国債格下げやらで市場は大荒れ、G7やらEUも協調介入に追われ、各国にも財政健全化政策推進へのプレッシャーが強まり、首脳陣も夏休み返上で大わらわでした。ECB[欧州中央銀行]の買い支えでなんとかリスクプライムの高騰に歯止めをかけることができたスペイン国債、そのつけが今頃回ってきたようです。EUの中で財政赤字GDP比率や債務残高対GDP比率の高い、いわゆるPIIGSと呼ばれる国々に入っているスペインですが、中でも失業率がダントツ一位で、22%を超えています。また、EUでは財政赤字GDP率が3%を超えると、ペナルティとしてEUの様々な基金を受けることができなくなり、産業経済面の大きな打撃となりますが、一時赤字率が10%を大きく超えたスペインEUの勧告に従って2009年以降ドラステックな財政緊縮政策を採用し、今年度は6.9%まで落とせる見通しと言われています。しかし猶予を与えられた2013年までにこれを3%に戻さねばなりません。財政緊縮と経済活性化、雇用創出・・・経済回復が遅々として進まない中、ようやく少しずつ回復の兆しが見えてこようとすると、投機市場に不安材料がバラまかれてまた後退・・・
スペインやイタリアの国債を買い支えはしないと言い続けてきたECBが介入した訳ですから、当然EUの「持てる国=基金を拠出する国」は再び同じことが起こらないように、プレッシャーをかけてきます。
市場の投機思惑を安心させるためにも「もう2度と財政赤字を大きくしません」という約束を強いられている訳です。憲法を改正して「2018年以降、国家だけでなく、自治州および各市町村も含むすべての行政レベルの財政において支出が収入を上回ることは認めない、つまり財政赤字憲法レベルで禁止する」という提案を23日国会においてサパテロ首相自らが行ったのです。既に党内の根回しは当然のこと、最大野党PP民衆党の合意も得ているらしく、9月27日に通常国会が終了するまでに絶対多数で決議に漕ぎ着け、国民投票なしでスピード改正に持っていきたい意向のようですが、左翼政党、民族政党、はては社会党内にも波紋は広がっているようです。
デフィシットゼロ(赤字ゼロ)が憲法で規定されると、税収、国債発行などの収入が減れば有無を言わせずに支出削減を余儀なくされ、その結果、公共事業、医療、教育、社会福祉、年金などの予算もカットせざるを得ない状況が出てくる可能性も否めないでしょう。既にここ数年、公共医療サービスの予算カットによるサービスの後退、年金受給年齢の引き上げ(65歳から67歳)、公共サービスを受けるための新たな納税義務の発生、公共交通機関の値上がり、政府助成金カットによる電気料金の大幅な値上がりなど、私たち一般市民もかなりの影響を受けていますが、憲法改正されると、将来はさらに厳しいものになりそうです。公共医療サービスが無料で受けられなくなったり、もらえる年金が少なくなったりということも有りうるのでしょう・・・
ちなみに、EUとしては、デフィシットゼロ規定を各国が憲法に盛り込むよう勧告しているらしいですが、現在すでにこの条項を憲法に入れているのはドイツのみで、2009年に国会で議決され、憲法には「2016年から財政赤字GDPの0.35%を超えてはならない」と謳われているのだそうです。

同じ、24日、スペインのテレビや新聞で大きく扱われたのがムーディーズによる日本国債の格下げ、Aa2からAa3」のニュース。格下げの理由として、世界最高の212%という債務残高対GDP比率、日本政府の経済政策に借金を減らそうという意思が見られない、5年間で内閣が6回も変わり経済政策を含めた国政の先が見えない、それに加えて地震津波原発という事態への対応に追われ右往左往している、などが挙げられているようです。さらに日本の銀行も同様に格下げされて、東京三菱UFJと住友三井がAa2 からAa3に、みずほがAa3からA1にランクダウンされたとのこと。ちなみにスペインの大手銀行BBVAとSandanderのムーディーズ格付けはAa2だそうです。
S&Pは既に今年前半に日本国債の格下げを行っていて、現在日本はAA-。最高のAAAは英、仏、独、アメリカは最近AAAからAA+に格下げ、EU内の劣等生であるイタリアとスペインでもAAですが、日本はそのワンランク下なのですね。
日本財務相のHPに入って、世界各国の財政赤字GDP比率および債務残高対GDP比率を見るとスペイン以外はこのようになっていました。スペインの数字はメディアの予想の数字です。
日/米/英/ 独/仏/伊/ スペイン
財政赤字GDP比率(2011) 8.7/10.8/ 8.7/2.1/5.6/3.9/6.9と予想されている
債務残高対GDP比率(2011) 212.7/101.1/88.5/87.3/97.3/129/75と予想されている

101.1という数字の米国はついこの間、債務上限を上げる法案をやっとの思いで議会通過させ、債務不履行をなんとか免れたばかり。イギリスはキャメロン内閣が財政赤字削減の大鉈を振いその反動があちこちで社会不満として噴出している一方、フランスも5.6という赤字比率を下げるべく政府も必死なら、民間優良企業の富豪たちが「フランス経済が立ち直るまで、もっと多く税金を納めるよ」と声を挙げて話題を呼んでいます。
EUをはじめ、経済を安定させるため国を挙げて真剣に取り組む中、日本では震災からの復旧と原発問題の解決、そして国家予算の是正というテーマはもう待ったなしのはずなのに、与野党間だけでなく、与党内部でも権力争いに明け暮れている様を見ると、怒りを通り越して、悲しくなってしまうのは私だけでしょうか・・・