ルーシーママのスペイン便り

ルーシーは2009年にマドリッドに近い村で生まれたトイプードル、ママはえらい昔、日本に生まれ、長い間スペインに住んでるおばはんです。

キッチン作戦(Operacion Kitchen)【後編】

 

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さて、前編でグルテル事件バルセナス事件の説明をしましたが、ここでようやく、キッチン作戦(Operacion Kitchen)の説明を始めましょう。

グルテル事件やバルセナス事件の裁判の捜査を受けて、民衆党の元会計責任者ルイス・バルセナスが所有していた、民衆党幹部にとって都合の悪い情報(バルセナス事件における党や党幹部個人の違法な資金調達があったことを示す証拠書類)を、非合法的手段(スパイを潜入など)を用いて奪取しようとした一連の活動がキッチン作戦と呼ばれます。作戦を実行したのは元警察官のホセ・ビジャレホと当時の現役警視、エウヘニオ・ピノで、お金と引き換えにスパイとなったのがバルセナス氏のお抱え運転手、セルヒオ・リオス。一番の問題点は、これらの活動が、2013年当時、民衆党が与党であったスペイン中央政府内務省に属する警察の組織とシステムを使い、国家の予備予算を使って行われたという点。

現時点で既に被疑者として捜査対象となっているビジャレホ元警察官、エウヘニオ・ピノ元警視、セルヒオ・リオス元運転手、フランシスコ・マルティネス元内務政務次官に加え、その上にいたコスペダル元民衆党総書記、フェルナンデス・ディアス元内務大臣、そして当時の民衆党首であり首相だったラホイ氏まで捜査が及ぶのかが注目されています。

全国管区裁判所でのキッチン事件(Caso Kitchen)予審捜査と並行して、国会で調査委員会を立ち上げてコスペダル元総書記やラホイ元首相の証言を求める動きも進行しています。

 

元警察官のビジャレホに関しては、8月12日の記事で少し触れていますが、実はこのキッチン事件全国管区裁判所が進めているビジャレホが関わった数々の違法行為に関する大掛かりな予審捜査である「タンデン事件」の一区分なのです。

タンデン事件第7区分に相当するこのキッチン事件に関して、2020年9月7日、担当しているマヌエル・ガルシア・カステリョン予審判事は、裁判内容の公表を決定しました。

公表された裁判内容を、エル・ディアリオ紙の記事を参考に、時系列に要約していきます。

 

2012.11.22  スイス検察がバルセナスの隠し口座があることを確認、公表。

2012.12.14 危機感を持ったバルセナスは自分の身を守るため、党の裏帳簿(企業から党への寄付金のリスト)を公証人立ち合いの下に認証登録。

2013.1.30 エル・パイス紙が、裏帳簿、「バルセナス・ペーパー」 をスクープ。

2013.2.25 (グルテル事件)ルイス・バルセナスはスイスの2つの銀行に合計4700万ユーロを持っていることを認める。

2013.6.27 (バルセナス事件)ルイス・バルセナスが逮捕・勾留される。

2013.7.7. 拘留中のバルセナスが、6月初めにエル・ムンド紙の社長から受けたインタビューの内容を、エル・ムンド紙が公表。インタビューの中でバルセナスは、1月にエル・パイス紙が暴露した裏帳簿、「バルセナス・ペーパー」は本物であること、およそ20年にわたり民衆党は非合法的な形で民間企業から資金調達を行い、選挙運動や党のイベント運営に当てたり、党幹部に不定期的な裏金として渡したりしてきたことなどを認めている。

2013.7.8 拘留中のバルセナス宛に党の弁護士から 「あなたが口を割ると、あなたの奥さんも捕まることになる」 旨の携帯メッセージが送られた、とエル・ムンド紙が報道。

2013.7.13 当時の内務大臣ホルヘ・フェルナンデス・ディアスが、内務省ナンバー2の政務次官フランシスコ・マルティネス宛に Bの運転手が重要」 と言う携帯メッセージを送信。バルセナスの拘留後、運転手は妻のロサリア・イグレシアスの運転手として勤務を続けており、この時点で運転手はスパイとして取り込まれていた模様。

2013 7月~2015年4月まで、毎月翌2000ユーロ、合計で50,000ユーロが警察からこの運転手に(スパイ活動の報酬として)支払われていたことが捜査で判明。

2013.7.14 拘留中のバルセナス宛に当時のラホイ首相(民衆党党首)から「気持ちを強く持て!」という趣旨の携帯メッセージが送られていたことがメディアに漏れ、物議を醸す。

2013.7.15 バルセナスは予審判事に対して、バルセナス・ペーパーは彼自身が作成したものであること、および党幹部はこの裏帳簿の存在を知っていたこと認め、これらの証拠が入ったペンドライブを提出(バルセナスは党に忠誠を誓うことを止めたため、党はバルセナスの所有する党にとって不都合な情報を入手する作戦を開始)。

2013.7.27から秋にかけて、警察の組織と装備・技術・システムを利用して、運転手経由でバルセナスの妻の動きと接触した人間などの情報が記録される。

2013.8.1 現役のラホイ首相が国会にて、先のバルセナス宛携帯メッセージに関して、「彼は無実だと信じて、彼を支援したが、私は間違っていた。この件で私が知っていることはこれだけだ」と証言。

2013.8.2 内務大臣ホルヘ・フェルナンデス・ディアスから政務次官フランシスコ・マルティネス宛に 「あらゆる手段と組織を使って、その情報を入手せよ」 と言うメッセージの送信。

2013.10.2 ビジャレホが運転手(セルヒオ・リオス)を自宅に呼び、必要な情報(バルセナスの携帯やパソコン)を奪取するための詳細作戦を練る。

2013.10.18 内務省政務次官フランシスコ・マルティネスは内務大臣宛に、「作戦は成功。携帯2台とタブレットの情報を削除」と報告。

2013.10.23 聖職者(司祭)を装った泥棒の常習犯がバルセナスの自宅に侵入したが、現行犯で逮捕される。キッチン事件捜査当局はこの常習犯はビジャレホから雇われてバルセナスが自宅に隠している書類を盗みに入ったものと疑っている。余談ですが、この空き巣騒ぎがあった時、私、ちょうど、この家の前を通って、何事があったのかと驚いたことを記憶しております。警察内にもいろいろテリトリーがあるのでしょうが、キッチン作戦展開してる警察官らにとっては、捕まえちゃいけない泥棒さんだったんでしょうねぇ。

2013.12.4 スパイとして潜入している運転手に、現役警察官からピストルが支給される。

2015.4.15 この日で運転手へ毎月の支払いが終了。

2016.9.13 (バルセナス事件)バルセナスは弁護士を変え、それまで主張してきた 「民衆党は、彼の執務室にあった2台のパソコンを持ち去り破壊した」 との訴えを取り下げる。バルセナスはなんらかの圧力で党との間で取引をしたのではないかと、世論が騒ぐ。

2017.2.17 (キッチン事件/タンデン事件)捜査で追い込まれたビジャレホは、共に多くの 「活動」をやってきた相棒である実業家に 「キッチン作戦の情報で上の奴らを脅すことができる。バルセナスとラホイの会話の録音もある」 と言及。

2017.5.16 運転手セルヒオ・リオスが国家警察に入隊。スパイ活動の見返りとして報酬と共に約束されていた条件どおり、42歳にしてコネで国家警察に入隊し、国家公務員となる。

2017.11.3 (タンデン事件)ビジャレホが逮捕・勾留される。

2018.5.24 (グルテル事件)バルセナスに禁固33年の判決が下りる。

2018.5.28 (グルテル事件)バルセナスの妻、ロサリア・イグレシアスに禁固15年の判決が下るが、20万ユーロを支払って釈放される。

2018.6.1 政権交代(民衆党ラホイ政権が不信任で倒れ、社会労働党の政権となった)

2018.10.29 キッチン事件の捜査を進めている警察の内部捜査局(公安、監察に相当)は、すべての作戦は当時の内務省政務次官フランシスコ・マルティネスによって統括されていたことから、当然上司の内務大臣ホルヘ・フェルナンデス・ディアスラホイ首相がそれを知らなかったとは考えにくい、としている。

2018.12.11 内務省がキッチン作戦には国家予算の予備費が使われていたことを公表。

2019.1.13 全国管区裁判所は、キッチン作戦の現場指揮としてエウヘニオ・ピノ警視を被疑者とする。

2019.1.16 元運転手、セルヒオ・リオスは判事に対して、自分がスパイだったことを認める。彼をスパイに誘ったのは当時一時休職中の警察官アンドレス・ゴメスで、その頃彼はマリア・ドローレス・デ・コスペダルの下で働いていた。

2020.1.24 当時の内務省政務次官だったフランシスコ・マルティネスが逮捕され、この事件で逮捕された最初の政治家となる。

2020.9.4 汚職特捜検察(Fiscal Anticorrupcion)がホルヘ・フェルナンデス・ディアス(2011~2016:内務大臣)とマリア・ドローレス・デ・コスペダル(2008~2018:民衆党総書記)をキッチン事件における被疑者とすることを請求。

ということで、キッチン事件裁判の予審捜査はまだまだ続きそうです。

 

おしまい